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One fact in one placeとチケット駆動開発 - Software Processes are Software, Too -

プロセスプログラミングを提唱したオスターワイル(Leon J. Osterweil)氏のことば

  “Software Processes are Software, Too”
 (ソフトウェアプロセスもソフトウェアである)

をヒントに、開発とマネージメントの共通点として、今回は「One fact in one place」と「チケット駆動開発」を考えてみます。開発者からマネージメントをするようになった方には経験を生かした管理を、管理をされている方には技術的な裏付けを知る機会になれば幸いです。

One fact in one place

データベースの正規化で使われる言葉です。ほかのデータから算出できる推移従属のデータを除いて、データを1か所に限定することです。同じデータは1か所にしかないので、常に一貫性のあるデータ集合を求められるようにします。他のテーブルと関連付ける場合もデータベースの機能を使えば、矛盾の生じない構造を実現しつつ多くの情報を管理することができます。

チケット駆動開発

チケットで障害やタスクを管理するRedmineTracなどを用いて、情報共有しつつ開発を進めていく方法です。これらのツールはITS(Issue Tracking System) あるいじはチケットシステムと呼ばれ、チケットを介して議論やステータスの管理ができます。プロジェクトの様々な情報をこのチケットに紐づけて管理すれば、最新の状況をチーム内で共有できます。

チケット駆動開発をうまく実践するには、チケットで情報を一元管理することです。ITS本来の使い方である障害や課題だけでなくタスクもチケットで管理し、バージョン管理ツールやWikiの情報もチケットと関連付けます。こうすることでプロジェクトの様々な情報をチケットと紐づけて管理できます。

何らかの理由で表計算ツールなど他の形式にする場合も、チケットから生成すれば情報の一貫性が保てます。とはいっても情報の粒度や目的などで自動生成できない時もあるでしょう。そのような場合も一から作成するのでなく、チケットの情報を確認しながら作成する、関連するチケット番号を記載するなどで、情報間の矛盾を減らし、正確で詳しい資料を作ることができるでしょう。

このような考え方はチケット駆動開発だけではありません。開発ドキュメントは工程間で抜け漏れなくトレースできないといけませんし、お客様への説明も一貫性がないといけません。アジャイル開発のストーリーカードとタスクカードの関係も同じでしょう。チケットシステムを利用しなくても、情報を小さな単位で整理して矛盾が生じないようにしましょう。

この記事はSRAアドベントカレンダーでも公開しています。

マルチスレッド処理と進捗管理・配員・作業分割/割り当て- Software Processes are Software, Too -

プロセスプログラミングを提唱したオスターワイル(Leon J. Osterweil)氏のことば

 “Software Processes are Software, Too
 (ソフトウェアプロセスもソフトウェアである)

をヒントに、開発とマネージメントの共通点として、今回は「カプセル化」と「組織パターン」を考えてみます。開発者からマネージメントをするようになった方には経験を生かした管理を、管理をされている方には技術的な裏付けを知る機会になれば幸いです

マルチスレッド処理

複雑な問題を短時間で処理する方法の一つです。複数のスレッドを用いて並列処理すれば効率的です。シングルスレッドの処理をマルチスレッドで処理する場合、以下のような順になるでしょう。

  1. 並列処理の準備
  2. スレッド開始処理
  3. スレッドの主処理
  4. スレッド終了処理
  5. 並列処理の後処理

これらはマルチスレッドを考慮して設計します。うまく設計できればスレッド数に応じて効率化されますが、うまく設計できないで主処理以外のオーバーヘッドが多い場合はスレッドが増えても効率化できません。特にすべてのスレッドの完了を待つ場合は最も遅い処理に全体が引きずられるでしょう。

進捗管理・配員・作業分割/割り当て

並列処理の簡単な例は進捗管理です。リーダーが各メンバーから順にヒアリングするには多くの時間が必要ですが、メンバーそれぞれが進捗を報告すれば短時間で終わるでしょう。しかし、各メンバーがバラバラな形式で好きなタイミングで報告するなら、内容の把握や確認でかえって時間がかかるかもしれません。手分けする準備として情報共有の仕組みを用意しておけば、メンバーの処理が標準化でき、その管理や集約も容易になるでしょう。

配員の場合はさらに工夫が必要です。進捗や成果物の共有環境を用意するのはもちろんのこと、メンバーが独立に同程度の品質を保てるようにします。具体的には横展開できるように先行して部分開発してサンプルを用意します。サンプルは成果物だけでなく、部分開発を踏まえたルールや手順などを用意して、サンプルをたたき台に作業を横展開できるようにします。

作業の分割にも工夫が必要です。作業量を平準化しやすいように時間のかかる作業は細かな作業に分割します。また、マイルストーンに合わせないといけない作業とそれ以外を分けておき、予定通りに進まないときに作業の空きがないように工夫します。

作業の割り当てにも工夫が必要です。作業者の得意な作業を割り当てれば一見、効率的ですが、作業には偏りがあるので、作業量がバラツキが出て手が空いてしまったり、誰かが体調を壊すとプロジェクト全体が止まってしまうことになります。このようなことを防ぐには、教育的な視点で作業を割り当てたり、処理の実装とテストで担当者を分ける、ペア/モブプログラミング(作業)などを長期的な視点で取り入れると良いでしょう。

この記事はSRAアドベントカレンダーでも公開しています。

 

カプセル化と組織パターン - Software Processes are Software, Too -

プロセスプログラミングを提唱したオスターワイル(Leon J. Osterweil)氏のことば

 “Software Processes are Software, Too”
 (ソフトウェアプロセスもソフトウェアである)

をヒントに、開発とマネージメントの共通点として、今回は「カプセル化」と「組織パターン」を考えてみます。開発者からマネージメントをするようになった方には経験を生かした管理を、管理をされている方には技術的な裏付けを知る機会になれば幸いです

カプセル化

カプセル化(リンク先はwikipedia)は情報隠蔽の手法で、オブジェクト指向にも取り入れられています。カプセル化することで外部には必要な情報のみが公開され、内部のデータや処理は守られます。オブジェクト指向において、外部からはメソッドを介してのみ情報を得ることができます。

オブジェクト間で連携するには、呼び出しとデータストア共有の2つの方法があります。呼び出しは責務を果たしてくれるオブジェクトのインタフェースを定めてその参照を知って知っていることで、オブジェクトに対して定められた方法で呼び出すことで、オブジェクト間で連携できます。データストア共有ではデータベースのようなデータストアを介する方法です。データ構造をあらかじめ決めておいて、オブジェクト間でデータの参照や更新を行います。

組織パターン

組織パターンは,開発チームをどう編成すればいいのかをパターンとして整理したものです。組織パターンはアジャイル開発のひとつであるスクラム開発にも取り入れられていて、プロダクトオーナーとスクラムマスターは、それぞれ門番、防火壁に相当します。チームへのインタフェースを限定し、外部からチームを守ります。チームをカプセル化するわけです。アジャイル開発に限らず、チームを外部から守り、必要な情報を提供できれば、チームは外部のストレスを受けないで開発に集中できます。また依頼すべき役割を担うチームを知り、適切な方法でアクセスすることでチーム間の連携ができます。

データストアによる情報共有はその方法によってメリット・デメリットがあります。

  • タスクカード:壁やホワイトボードに張り出すことでチームの状況を見える化します。無意識に目に入るので常にゴールを共有できます。その反面、色分けなどで工夫しないと管理や検索が難しいので電子化されることも増えています。
  • チケット:RedmineやGitHUBなどのチケット(イシュー)を使ってタスクを管理します。優先順序などそのままでは扱いにくいので、タスクカード風のUIをもつJIRAやプラグインが使われることもあります。
  • 資料:チーム内で資料を共有します。いつでも再確認ができる反面、資料の質がコミュニケーションの質になります。
  • ミーティング:もっともアナログな情報共有です。音声による情報共有はニュアンスなど情報量鵜が多いので、チケットや資料などの共有と併せて実施されます。人数や時間によって工数がかかります。

システム開発と同じように、どのようにチーム間あるいはチーム内で連携するかで、成否が決まります。ウォータフォールや味あるなど既存のプロセスを利用するとある程度の品質は得られますが、そのプロセスのメリット・デメリットを把握していないと効率的な開発は行えないでしょう。

この記事はSRAアドベントカレンダーでも公開しています。

論文研修会(導入編)- 論理的思考のすすめ -

この記事は SRA Advent Calendar 2019 2日目の記事です。

私の所属する関西事業部では、社内研修会というものを実施しています。個人的には、勉強会のようなものはオープンに行う方が、新しい技術を身につけられてよいし、社内を知ることができると思っています(社内勉強会より社外の勉強会)。しかし、社内でないと話しにくい内容もあるもので、今回行う論文の書き方などがそれで、論文と言いながら事例報告の概要を書くのですが、外に出せるネタがあるとは限らないので、社員だけが知ることのできる事例をもとに書き方を学び、それを通じて論理的思考を学ぶ。なんていうのは社内だからできることです。

論文というのは技術情報を伝達する方法の一つです。古くからソフトウェア開発では「コミュニケーション」が問題とされることが多くありました。しかし、この「コミュニケーション」には2つの側面があって、一つは情報伝達、もう一つが人間関係に起因する協力的な関係が気づけるかどうかだと思います。

このうち情報伝達のトラブルは、論理的思考力を身に着けることで大きく改善します。スライド中にある

  • いつのまにか話が長くなって 打ち合わせがなかなか終らない。
  • お客様や上司に理解してもらえず 意見が通らない。
  • 話を直接聞いているのに勘違いする。

などは、論文作成を通じて論理的思考力が身についていれば、多くの混乱を避けることができるでし
ょう。

参加者は社外発表をきたされている人や、昇格に向けて一皮むけてほしい人たちでした。内容はそれなりに伝わったようで、納得したり、耳が痛かったりしたようです。

スライドの説明のあと、以前日科技連でお話しした論文の書き方を説明しました(9日目の記事に続く)。

 

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デブサミ関西でNode-REDとペンギンと勇気の話をしました #devsumiB

Developers Summit 2018 KANSAI(以下デブサミ関西)で発表してきました。

Node-REDを使って約3年、こんなに手になじむ感覚は、Rubyを初めて使った時以来でした。Node-REDは実装の生産性が高く、仕組みを考えて早めに作って確認するという繰り返しで開発ができます。難しいシステムの開発も、全体のデータ構造やアーキテクチャなどの難しい部分に注力できます。

今年のデブサミ関西には公募枠で事例を募集していましたので、お気に入りのNode-REDを広めるべく、ダメ元で応募しました。応募する際にはデブサミなのでかっこよくしないといけないと思って、社内のNode-RED経験者のアンケートを元にキャチーなキーワードで概要をまとめました。しかし、発表に向けてスライドを作る中で本音や伝えたいことが増えたので、書き足しました。

そもそもの始まりはお客様からの依頼でした。自分たちの仕事を減らすかもしれない開発に対して、それまでの仕事に対する「お客様と同じ方向を見る」(アジャイル開発)、「適切な費用をもらう」(オープンソース)、「よい技術を取り入れる」(技術志向)という3つの考え方で積極的に協力しました。Node-REDは思った通りに実装できて、生産性はとても高かったです。

そんな概要を書いていましたが、よくよく考えると、お客様にそう言わせるほど生産性の高いNode-REDとはどんなものだろうと、不安よりも技術的な興味が先立っていました。未知の分野ではありましたが準委任契約ということもあって、ほんの少しの勇気で新しい世界に飛び込みました。

「ファーストペンギン」という言葉があります。怖がりのペンギンは仲間と寄り添うばかりで、なかなか海に飛び込みません。そのようなペンギンの中で最初に海に飛び込むペンギンは勇気のあるペンギンとして称賛されます。

ソフトウェアの世界でも新しい世界に飛び込むには勇気が必要です。未来に広がるブルーオーシャンを手に入れるには、怖がらずに飛び込むことが必要です。

しかし、勇気とは無謀な行いや蛮勇ではありません。ソクラテスは、 勇気とは、 「恐るべきものと恐るべからざるものとを 識別することなり」と言っています。我々の場合は準委任契約という強みがありました。今は書籍やユーザーグループなど、当時と比べてNode-REDの情報は豊富になり、議論や相談ができる仲間がいます。ぜひ皆さんも情報を得て勇気をもってください。

11/24(土) にソフトウェア技術者協会関西支部で「 Nodeから手が出るNode-RED(初心者向け) 」と題するハンズオンがエルおおさか (大阪府立労働センター) を開催します。
まだ募集が始まっていませんが、興味のある方はコンパスのメンバーになるか私のTwitterをフォローしてください。

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標準は諸刃の剣

標準と聞くと仕事を楽にするもの、組織に必要なもの、 あるいは、 面倒臭いもの、 厳しいもの、と考える方がおられるかも知れません。これはどちらも真っ当な意見で、標準には良い面があるものの、悪い面もあります。

標準の効果

ここで参考になるのはプロセスモデリングのゴールでしょう([#TiDD]失敗しないチケット駆動開発 - プロセスモデリングの視点から+告知 -)。標準を理解し、共通の行動を前提に改善し、必要な作業が行われているか管理し、ツールによる自動化やガイドできます。

つまり開発者を支援して、一定のレベルへの底上げや組織的な改善が可能になります。

思考停止の罠

組織活動に便利な標準ですが、思考停止に陥りがちです。厳しく管理することで標準に従うことに集中してしまい、より良いものを追求しなくなってしまいます。また、柔軟な開発ができなくなるので、 開発の負担になって生産性が低下してしまうこともあるでしょう。

より難しい問題は、技術者の成長を止めてしまうことです。実際に大規模開発でうまくやっていた人が、小規模で比較的自由な開発でプロジェクトをうまく管理できないこともあります。なぜその標準が必要なのかをキチンと理解していなかったのでしょう。

良い標準

このような問題が生じにくい標準を考えてみます。標準で全てを縛るのではなく、その重要度によって規則、推奨、参考情報に分けると良いでしょう。単純な共通化ではなく、判断条件と共に複数の選択肢を示します。

良い標準は学びになります。その標準がなぜ良いか、どのような条件で有効か、その理由が説明されているなら、標準に振り回されること無く、自ら判断して実施できるでしょう。

標準を活かすには

どんなに良い標準でも、言われるままに実施しているのでは仕事をこなしているだけです。確認が可能なら、きちんと原本を読んでください。思わぬ発見があるかも知れません。

標準はそれぞれの組織や業務に応じて決められたものですので、定められた制約を守らないといけません。反面、制約を守っていればそこに工夫の余地があります。ソフトウェア開発と同じです。

(参考)詳細設計書を後回しにした話:Win-Winプロセス(ウォータフォール編)

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決定をできるだけ遅らせる -「現場で役立つシステム設計の原則」深読み -

増田さんの「現場で役立つシステム設計の原則」に関して様々な議論があり、私も立食とコース料理 -「現場で役立つシステム設計の原則」批判の一考察 -を書いたあと、様々な議論をさせていただきました。私なりの本の読み方が見えてきたのでまとめておきます。

この本はアジャイル開発(以下アジャイル)がベースになっていると思います。特にリーンソフトウェア開発のプラクティスである「 決定をできるだけ遅らせる」(リーンを考える - 無駄と必要なアソビ -) の考え方が透けて見えます。

この考え方は上流工程をもつ従来の開発方法(ウォーターフォールと呼ぶとリリースが1回とか工程間で判定会議がいるとされることもあるのでこう表現します、以下、従来法)とは大きく異なる考え方です。

従来法の考え方

従来法で上流が重視されます。これは、ベーム先生の後工程になると修正工数が指数的に増えると発表されたからです(「要求は変化する。Boehm は間違っていた、と DeMarco が暴いた。」というYourdon のブログ:An Agile Way:オルタナティブ・ブログ)。後工程になれば修正が大変だからと上流工程で頑張ることで、開発のリスクを減らそうとした訳です。

話はそれますが、ベーム先生はその後の繰り返し開発やアジャイル開発につながるスパイラルモデル(リンク先はWikipedia)を提唱されたり、後述の「アジャイルと規律」を執筆されるなどアジャイル開発に貢献もされています。IEEE Softwareの紙面でケント・ベックさんとXPについて議論されていたので、からかわれたのじゃないでしょうか。

決定をできるだけ遅らせる

話を戻して「決定をできるだけ遅らせる」というのはYAGNI(You aren't gonna need it)に通じる考え方です。従来法とは逆に、変更の可能性を考慮して、どうしても決めないといけない時(最終責任時点)まで決定遅らせるというプラクティスです。

例えば車のドアのところのデザインがかわる可能性がある場合、ドア部分の金型を削ってしまわずに少し残しておくといった対処で、後から変更が生じた際に調整できるように決定を遅らせるというプラクティスです。すべての事を決定しておかずに余裕を持たす事で、選択肢を残せます。

従来法のソフトウェア開発に置いても、決めきれない内容はペンディング、TBD、TODOなどといって後回しにしたり、手軽な方式に仮決めしておきますよね。それを時間切れだからとあきらめてするのではなく、変更の可能性を意識して選択肢を残す目的で実施するようなイメージです。こうすることで多大な手戻りのリスクを減らします。

「現場で役立つシステム設計の原則」の深読み

このような視点で読むと、仮決めする際のデフォルトが示されているように思います。オブジェクト指向はこう理解して、こう言う風に考えるとうまくいく、短いイテレーションも乗り切れるよ。という風に読めてきます。

上記は私の勝手な忖度ですが、増田さんの講演資料にある批判に対する回答を読むと、増田さん自身も決定を遅らせる考え方をもたれていることがわかります(現場で役立つシステム設計の原則)。

この5ページの「すべてのカラムが Not Null は非現実的?」に対して「実際にやっている、特に困っていない、SQL のスキル+ IDE サポート」という回答からも、決定を遅らせるスタンスが感じられます。

批判を考える

このように考えた上で、この本に対して書かれている批判を考えると、とても良い指摘ではあるものの、「決定をできるだけ遅らせる」こととと対極にある「はじめのうちからしっかり作る」ことを勧められている様に思います。

もちろんリスクを減らす目的で決定をできるだけ遅らせているのであり、「はじめのうちからしっかり作る/設計する」方がリスクが減るのであれば、実施すべきでしょう。

kent4989さんのブログ勘と経験と読経でその方法が紹介されていました(アジャイルとデータモデル、DB進化設計のこと)。アジャイルにこだわるならイテレーションゼロで吸収する。それ以外なら前段階で供給開発、あるいは、RUPなどの反復開発手法の併用を勧められています。最近ではたなかこういちさんが、アジャイルでスタートアップも、軌道に乗ったらUPへ移行すべきときが来る、というものかもしれないと言われています。

2017/9/8追記
アジャイルにこだわる方法としてFDD(リンク先はWikipedia)もあります。
[#Agile] FDDはアジャイル開発、ハイブリッドアジャイルは、、
[#TiDD] 手分けするより助け合い - FDDとチケット駆動開発 -

2017/9/14追記
この本の特徴の一つは決定を遅らせる際のシンプルなデフォルトを示していることです。イテレーション(スプリント)をうまく回せるか不安だった方や、ベロシティ(開発速度)が上がらなくて困っていた方には、大いに参考になるでしょう。

その方法は独特です。批判の多くは一般的な方法を主張し、その良さを指摘したものです。批判の実践はこの本に書かれたシンプルさを損ないますので、どちらを優先すべきか良く判断すべきだと思います。

もし、批判を読んで今までの開発が不十分で問題だったと思われるなら、批判は一部だけを示したものですので、より広く検討して上述の実施方法などを検討する必要があるでしょう。

アジャイルにこだわるかの判断

批判を別にしてもアジャイルにこだわるべきかどうかは考えておく必要があります。平鍋さんのブログデータモデリングなきアジャイル開発は危ういか?では、プロジェクトや製品の文脈によって変わるとされていますし、上述のたなかこういちさんのブログでも「バックオフィス側の管理業務」など業務が大きな要素であることは間違いないと思います。

一方、ベーム先生の「アジャイルと規律」ではアジャイルの5つの重要要因として、規模、重要度、 変化の度合いといった業務に関わる要員のほか、人、文化が挙げられています。

人に依る違い

設計に関して渡辺さんが「システム設計と創造性」の中で“まずは「システムが扱う現実の全体をぼやーっと理解する」ことを目指せばよい”とされていて、私もそうしています。

しかし、ふと思い出すと小学生のことです。私は作文の時間の半分以上をあーでもない、こーでもないと書く内容を考えていました。成績は悪くはなかったのですが、私よりもできる人の中には、作文の時間にすぐに書き出す人もいました。設計でも同じ様に人によって作りながらの方がうまくいく人がいるかも知れません。

そう思うと、書籍アジャイルサムライに

と書かれていたことが設計にも言えるのではないかと思います。

おわりに

増田さんの本に関しては、上記のような視点でとても興味深く読ませていただきました。できれば、続編あるいは改訂版のような形で、アジャイルとリファクタリングによる進化のさせ方について、もっと書いていただければと思っています。

なお、個人的なアジャイル開発に関する考えは、[#Agile] アジャイル開発の課題と対策 その1に書いています。現場でスクラムやXPの様なタイムボックス型管理をしているアジャイル開発はしていませんが、いわゆるモダンアジャイルを実践しているつもりです。

2017/9/8追記

アジャイルマニュフェストはオブジェクト指向の有名人が集まって決めたので、なるほどと思いました、サブタイトルからもオブジェクト指向からの説明の方がしっくりくるかも知れません(私には書けませんが)。

これに関連して「アジャイルプロセスでは、本質的なデザインやアーキテクチャに関する意思決定をできるだけ遅らせることができます。」というマーチン・ファウラー氏の言葉を見つけてニワトリとタマゴの関係だと思いました。

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立食とコース料理 -「現場で役立つシステム設計の原則」批判の一考察 -

高級食材をリーズナブルに提供する立食タイプのレストランがはやっている。景気が少しは上向いたものの本格的な好景気と言いがたい中、たまには良いものを食べたいというニーズに応えるべく、立食で回転率を上げることで原価率の高いリーズナブルな商品を提供しているのだ。

これに対して本格的なコース料理を出すレストランの方々は、苦々しく思われているだろう。食事というのは文化であり、美味しく食べるには順番があり、ふさわしいサービスと共に提供することで至福の時間を楽しんでいただける。それなのに、メインディッシュ中心で、イスすら無い。そもそもイスが無ければ落ち着かないじゃないか、と。

もちろん、単なるアイデア勝負では勝てないので、立食サービスを提供する側も顧客の特性を見据えて方針を変更する。たとえば大阪と京都だけはイスを設置するなどして、ニーズに応えようとする。

オブジェクト指向

前置きが長くなったが、増田さんの本と杉本さんの批判を読んで頭に浮かんだことである。

杉本さんの「現場で役立つシステム設計の原則」批判 (1) ~何のために、「データとロジックを一体に」するのか?~「現場で役立つシステム設計の原則」批判 (2) ~ポリモーフィズムは何のために?~ を読んでいると「なるほど」と思うものの「現場で役立つシステム設計の原則 ~変更を楽で安全にするオブジェクト指向の実践技法」の増田さんはなぜそのような本を書かれたが気になった。

そこで話題の本を読んでみると、私の知っているオブジェクト指向をベースに戦略的な内容が書かれていた。ベースとなるオブジェクト指向は、デザインパターンが話題になるまでのオブジェクト指向に近いものだ。

オブジェクト指向の主張や流派には色々あるが、Smalltalkで学ぶオブジェクト指向プログラミングでは、アラン・ケイさんが「生物がどのように複雑な構造を作るかを考えました」という言葉を引用し「オブジェクトは細胞のアナロジー」としている。

そこには、小さなものを作り、確認しながら、方向性を見極めながら、徐々に大きなものを作るアジャイル開発やリーンスタートアップにつながる戦略が垣間見える。

アジャイル開発とリーンスタートアップの戦略に求められるもの

アジャイル開発も最近ではモダンアジャイルと言って、定期的なタイムボックス管理にこだわらず、ビジネスの成長に直結するソフトウェアを、よりコアな部分から段階的に、しかも安全に開発する方法として実践されつつある。

そのような開発では、従来型開発で重視された、業務全体を見渡して最適化すること、技法本来の使い方を熟知すること、将来的に必要と思われる機能をシステム一式を開発するよりも、ローコストで、シンプルで、業務に役立つ最低限のシステム、の開発が求められる。

もちろん、アジャイル開発に向いた開発法には欠点もあり、初期の開発では業務全体に最適化されておらず、技法としても不十分で、将来的に継続的な改修が必要となる。

しかし、収益を出すことが難しいスタートアップ企業のに求められるのは

  • ビジネス(業務活動)が実施できること
  • 理解が容易な程度に単純なこと
  • リファクタリングが容易なこと

といった点である。これらはビジネスの存続・発展のためには重視されるだろう。

立食 vs コース

さて、機能の抜けが無く良い設計のソフトウェア開発と、リファクタリングを前提に最低限の機能から実装する方法は、本格的なコース料理を提供するレストランと、メインの料理を中心に立食で提供するレストランの様に戦略が異なる。

今後も発展するだろうが、ブームは過ぎるかもしれないし、立食で無くなるかも知れないが、回転率を重視する店は今後も存在するだろう。逆に、コースを提供するレストランは淘汰が進むかもしれないが、こちらも全てが無くなることは無いだろう。

それぞれに特長があり、調理師に求められるスキルも異なる点があるだろう。互いに相手のやっていることは、自分のやりたいことではないと言うかもしれない。

しかし、相手の立場に立ってその戦略を見たとき、自分の技術に書けている点や自身の強みが見えてきて、技術を磨くための肥やしになるだろう。

おわりに

今回の議論はとても興味深く、とても参考になる。その背景には感情的な対立でなく、若い人にわかって欲しいとか、偏った考えを持って欲しくないという前向きなものだ。

すでに若いとは言えない年だが、色々と学ばせていただいた。今後もぜひ前向きに議論を続けていただき、技術の発展に貢献していただきたい。

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[#TiDD] プロジェクトを成功させるチケット管理

QuaSTom高品質ソフトウェア技術交流会 2017年度第2回例会で講演させていただきました。

Redmineの勉強会ではないので初心者の方が多いかと思いきや、9割の方がチケットシステムを使われていて、そのうちTracが24%、Mantisが8%、残りがRedmineを使われていました。

幹事の松谷さんに用意していただいたグループディスカッションも、みなさんのお悩みや経験で盛り上がりました。やはり、メンバーにきちんと理解してもらえないとうまくいかないようです。

同じような議論は、90年代後半以降のプロセス改善ブームの頃にもありました。みなさんの意見をうかがっていると、やはり「ツールの導入はプロセス改善である」という思いが強くなりました。

ディスカッションへのコメントで「ゴールはプロジェクトの成功」とお話ししたことや、講演のおまけでお話しした「サーバントリーダーシップ」もリーダーシップの議論をされているとのことで喜んでいただけました。

久しぶりに大いに刺激を受けることができました。ありがとうございました。

おまけ

講演の仲であまり詳しく説明しなかったチケット駆動開発のレフトウィングとライトウィングのお話は、以下の発表が元になっています。

[#redmineT] 裾野が広がるRedmine「チケット駆動開発導入のヒント - 自律と規律 -」

(今回はお話ししませんでしたが、改善にはフィードバックやタイミングも重要だと思っています)

この発表の際にも使わせていただいた乗松さんの資料(PDF)の23ページ「SPIモードの遷移」は認証の罠を標準化の罠に読み替えるとツール導入にも同じような問題が起きると思いますので、参考にしてください。

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アジャイルジャパン大阪サテライト2017の感想

SS2017のポストイベントがなくなったので、 急遽スタッフとして参加しました。


(1)キーノート:シンアジャイル(Joshua Kerievsky)

モダンアジャイルについての説明。タイトルはAgileJapan2017のタイトルにあわせて変更されたようです(シン・ゴジラをまねた?)。

個人的にアジャイル開発のタイムボックス管理は、作業タイミングを固定化するので超短期開発にはフィットしないと思っていました。Kerievsky氏は早くからタイムボックスを守るよりも顧客のメリットを考えようと言われていたそうです(そのとおり!)。

提案する新しい4つの原則は従来のアジャイルマニュフェストに対応しながらも、顧客やソフトウェアの安全性に配慮したものでした。

講演概要
http://www.agilejapan.org/session.html#session01

Agile 2016の基調講演: モダンアジャイル
https://www.infoq.com/jp/news/2016/08/agile2016-modern-agile

チェンジビジョン/英和システム 平鍋さんの説明
https://anagileway.wordpress.com/2016/10/07/modern-agile-jp/


(2)ヴァル研究所 新井さんの講演

アジャイルを社内に広げる際の話。みんなが積極的になるように色々と工夫された中で、権限(部長)があるので、一部の活動が社内評価と連動するようにした。と言われていたので懇親会で質問させていただきました。

質問は、社内の仕組みと連動すると、義務感ややらされ感が出ると思うが、どのようにバランスをとられているか?

答えは、社員には積極的なできる人と、受身の人と両方いて受身の人も働いてもらわないといけない。ルールを決めても相手によって変えている。とのこと。

つまり、ルールはがちがちにせず、運用時に人を見て、たぶんチームによっても変えているのでしょう。エンジニアは、ついつい一貫性が気になりますが、個人個人を良く見ると言うことが重要だと思いました。

ちなみに、「上から見てなので、みんながどう思っているかはわからないですけどね。」と謙虚に言われていたのが印象的でした。


(3)コニカミノルタの久保さんによるエモイ話

人はなぜ生きているのか?それは人生を楽しむためである。

なぜ苦しみがあるのか?それは、いつかより人生を楽しめるからである。

いい人である必要は無い。人の顔色ばかり見る必要は無い。わかってあげるだけでいい。

そう、生きているだけで素晴らしい。

そう思いました。

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