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標準は諸刃の剣

標準と聞くと仕事を楽にするもの、組織に必要なもの、 あるいは、 面倒臭いもの、 厳しいもの、と考える方がおられるかも知れません。これはどちらも真っ当な意見で、標準には良い面があるものの、悪い面もあります。

標準の効果

ここで参考になるのはプロセスモデリングのゴールでしょう([#TiDD]失敗しないチケット駆動開発 - プロセスモデリングの視点から+告知 -)。標準を理解し、共通の行動を前提に改善し、必要な作業が行われているか管理し、ツールによる自動化やガイドできます。

つまり開発者を支援して、一定のレベルへの底上げや組織的な改善が可能になります。

思考停止の罠

組織活動に便利な標準ですが、思考停止に陥りがちです。厳しく管理することで標準に従うことに集中してしまい、より良いものを追求しなくなってしまいます。また、柔軟な開発ができなくなるので、 開発の負担になって生産性が低下してしまうこともあるでしょう。

より難しい問題は、技術者の成長を止めてしまうことです。実際に大規模開発でうまくやっていた人が、小規模で比較的自由な開発でプロジェクトをうまく管理できないこともあります。なぜその標準が必要なのかをキチンと理解していなかったのでしょう。

良い標準

このような問題が生じにくい標準を考えてみます。標準で全てを縛るのではなく、その重要度によって規則、推奨、参考情報に分けると良いでしょう。単純な共通化ではなく、判断条件と共に複数の選択肢を示します。

良い標準は学びになります。その標準がなぜ良いか、どのような条件で有効か、その理由が説明されているなら、標準に振り回されること無く、自ら判断して実施できるでしょう。

標準を活かすには

どんなに良い標準でも、言われるままに実施しているのでは仕事をこなしているだけです。確認が可能なら、きちんと原本を読んでください。思わぬ発見があるかも知れません。

標準はそれぞれの組織や業務に応じて決められたものですので、定められた制約を守らないといけません。反面、制約を守っていればそこに工夫の余地があります。ソフトウェア開発と同じです。

(参考)詳細設計書を後回しにした話:Win-Winプロセス(ウォータフォール編)

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決定をできるだけ遅らせる -「現場で役立つシステム設計の原則」深読み -

増田さんの「現場で役立つシステム設計の原則」に関して様々な議論があり、私も立食とコース料理 -「現場で役立つシステム設計の原則」批判の一考察 -を書いたあと、様々な議論をさせていただきました。私なりの本の読み方が見えてきたのでまとめておきます。

この本はアジャイル開発(以下アジャイル)がベースになっていると思います。特にリーンソフトウェア開発のプラクティスである「 決定をできるだけ遅らせる」(リーンを考える - 無駄と必要なアソビ -) の考え方が透けて見えます。

この考え方は上流工程をもつ従来の開発方法(ウォーターフォールと呼ぶとリリースが1回とか工程間で判定会議がいるとされることもあるのでこう表現します、以下、従来法)とは大きく異なる考え方です。

従来法の考え方

従来法で上流が重視されます。これは、ベーム先生の後工程になると修正工数が指数的に増えると発表されたからです(「要求は変化する。Boehm は間違っていた、と DeMarco が暴いた。」というYourdon のブログ:An Agile Way:オルタナティブ・ブログ)。後工程になれば修正が大変だからと上流工程で頑張ることで、開発のリスクを減らそうとした訳です。

話はそれますが、ベーム先生はその後の繰り返し開発やアジャイル開発につながるスパイラルモデル(リンク先はWikipedia)を提唱されたり、後述の「アジャイルと規律」を執筆されるなどアジャイル開発に貢献もされています。IEEE Softwareの紙面でケント・ベックさんとXPについて議論されていたので、からかわれたのじゃないでしょうか。

決定をできるだけ遅らせる

話を戻して「決定をできるだけ遅らせる」というのはYAGNI(You aren't gonna need it)に通じる考え方です。従来法とは逆に、変更の可能性を考慮して、どうしても決めないといけない時(最終責任時点)まで決定遅らせるというプラクティスです。

例えば車のドアのところのデザインがかわる可能性がある場合、ドア部分の金型を削ってしまわずに少し残しておくといった対処で、後から変更が生じた際に調整できるように決定を遅らせるというプラクティスです。すべての事を決定しておかずに余裕を持たす事で、選択肢を残せます。

従来法のソフトウェア開発に置いても、決めきれない内容はペンディング、TBD、TODOなどといって後回しにしたり、手軽な方式に仮決めしておきますよね。それを時間切れだからとあきらめてするのではなく、変更の可能性を意識して選択肢を残す目的で実施するようなイメージです。こうすることで多大な手戻りのリスクを減らします。

「現場で役立つシステム設計の原則」の深読み

このような視点で読むと、仮決めする際のデフォルトが示されているように思います。オブジェクト指向はこう理解して、こう言う風に考えるとうまくいく、短いイテレーションも乗り切れるよ。という風に読めてきます。

上記は私の勝手な忖度ですが、増田さんの講演資料にある批判に対する回答を読むと、増田さん自身も決定を遅らせる考え方をもたれていることがわかります(現場で役立つシステム設計の原則)。

この5ページの「すべてのカラムが Not Null は非現実的?」に対して「実際にやっている、特に困っていない、SQL のスキル+ IDE サポート」という回答からも、決定を遅らせるスタンスが感じられます。

批判を考える

このように考えた上で、この本に対して書かれている批判を考えると、とても良い指摘ではあるものの、「決定をできるだけ遅らせる」こととと対極にある「はじめのうちからしっかり作る」ことを勧められている様に思います。

もちろんリスクを減らす目的で決定をできるだけ遅らせているのであり、「はじめのうちからしっかり作る/設計する」方がリスクが減るのであれば、実施すべきでしょう。

kent4989さんのブログ勘と経験と読経でその方法が紹介されていました(アジャイルとデータモデル、DB進化設計のこと)。アジャイルにこだわるならイテレーションゼロで吸収する。それ以外なら前段階で供給開発、あるいは、RUPなどの反復開発手法の併用を勧められています。最近ではたなかこういちさんが、アジャイルでスタートアップも、軌道に乗ったらUPへ移行すべきときが来る、というものかもしれないと言われています。

2017/9/8追記
アジャイルにこだわる方法としてFDD(リンク先はWikipedia)もあります。
[#Agile] FDDはアジャイル開発、ハイブリッドアジャイルは、、
[#TiDD] 手分けするより助け合い - FDDとチケット駆動開発 -

2017/9/14追記
この本の特徴の一つは決定を遅らせる際のシンプルなデフォルトを示していることです。イテレーション(スプリント)をうまく回せるか不安だった方や、ベロシティ(開発速度)が上がらなくて困っていた方には、大いに参考になるでしょう。

その方法は独特です。批判の多くは一般的な方法を主張し、その良さを指摘したものです。批判の実践はこの本に書かれたシンプルさを損ないますので、どちらを優先すべきか良く判断すべきだと思います。

もし、批判を読んで今までの開発が不十分で問題だったと思われるなら、批判は一部だけを示したものですので、より広く検討して上述の実施方法などを検討する必要があるでしょう。

アジャイルにこだわるかの判断

批判を別にしてもアジャイルにこだわるべきかどうかは考えておく必要があります。平鍋さんのブログデータモデリングなきアジャイル開発は危ういか?では、プロジェクトや製品の文脈によって変わるとされていますし、上述のたなかこういちさんのブログでも「バックオフィス側の管理業務」など業務が大きな要素であることは間違いないと思います。

一方、ベーム先生の「アジャイルと規律」ではアジャイルの5つの重要要因として、規模、重要度、 変化の度合いといった業務に関わる要員のほか、人、文化が挙げられています。

人に依る違い

設計に関して渡辺さんが「システム設計と創造性」の中で“まずは「システムが扱う現実の全体をぼやーっと理解する」ことを目指せばよい”とされていて、私もそうしています。

しかし、ふと思い出すと小学生のことです。私は作文の時間の半分以上をあーでもない、こーでもないと書く内容を考えていました。成績は悪くはなかったのですが、私よりもできる人の中には、作文の時間にすぐに書き出す人もいました。設計でも同じ様に人によって作りながらの方がうまくいく人がいるかも知れません。

そう思うと、書籍アジャイルサムライに

と書かれていたことが設計にも言えるのではないかと思います。

おわりに

増田さんの本に関しては、上記のような視点でとても興味深く読ませていただきました。できれば、続編あるいは改訂版のような形で、アジャイルとリファクタリングによる進化のさせ方について、もっと書いていただければと思っています。

なお、個人的なアジャイル開発に関する考えは、[#Agile] アジャイル開発の課題と対策 その1に書いています。現場でスクラムやXPの様なタイムボックス型管理をしているアジャイル開発はしていませんが、いわゆるモダンアジャイルを実践しているつもりです。

2017/9/8追記

アジャイルマニュフェストはオブジェクト指向の有名人が集まって決めたので、なるほどと思いました、サブタイトルからもオブジェクト指向からの説明の方がしっくりくるかも知れません(私には書けませんが)。

これに関連して「アジャイルプロセスでは、本質的なデザインやアーキテクチャに関する意思決定をできるだけ遅らせることができます。」というマーチン・ファウラー氏の言葉を見つけてニワトリとタマゴの関係だと思いました。

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立食とコース料理 -「現場で役立つシステム設計の原則」批判の一考察 -

高級食材をリーズナブルに提供する立食タイプのレストランがはやっている。景気が少しは上向いたものの本格的な好景気と言いがたい中、たまには良いものを食べたいというニーズに応えるべく、立食で回転率を上げることで原価率の高いリーズナブルな商品を提供しているのだ。

これに対して本格的なコース料理を出すレストランの方々は、苦々しく思われているだろう。食事というのは文化であり、美味しく食べるには順番があり、ふさわしいサービスと共に提供することで至福の時間を楽しんでいただける。それなのに、メインディッシュ中心で、イスすら無い。そもそもイスが無ければ落ち着かないじゃないか、と。

もちろん、単なるアイデア勝負では勝てないので、立食サービスを提供する側も顧客の特性を見据えて方針を変更する。たとえば大阪と京都だけはイスを設置するなどして、ニーズに応えようとする。

オブジェクト指向

前置きが長くなったが、増田さんの本と杉本さんの批判を読んで頭に浮かんだことである。

杉本さんの「現場で役立つシステム設計の原則」批判 (1) ~何のために、「データとロジックを一体に」するのか?~「現場で役立つシステム設計の原則」批判 (2) ~ポリモーフィズムは何のために?~ を読んでいると「なるほど」と思うものの「現場で役立つシステム設計の原則 ~変更を楽で安全にするオブジェクト指向の実践技法」の増田さんはなぜそのような本を書かれたが気になった。

そこで話題の本を読んでみると、私の知っているオブジェクト指向をベースに戦略的な内容が書かれていた。ベースとなるオブジェクト指向は、デザインパターンが話題になるまでのオブジェクト指向に近いものだ。

オブジェクト指向の主張や流派には色々あるが、Smalltalkで学ぶオブジェクト指向プログラミングでは、アラン・ケイさんが「生物がどのように複雑な構造を作るかを考えました」という言葉を引用し「オブジェクトは細胞のアナロジー」としている。

そこには、小さなものを作り、確認しながら、方向性を見極めながら、徐々に大きなものを作るアジャイル開発やリーンスタートアップにつながる戦略が垣間見える。

アジャイル開発とリーンスタートアップの戦略に求められるもの

アジャイル開発も最近ではモダンアジャイルと言って、定期的なタイムボックス管理にこだわらず、ビジネスの成長に直結するソフトウェアを、よりコアな部分から段階的に、しかも安全に開発する方法として実践されつつある。

そのような開発では、従来型開発で重視された、業務全体を見渡して最適化すること、技法本来の使い方を熟知すること、将来的に必要と思われる機能をシステム一式を開発するよりも、ローコストで、シンプルで、業務に役立つ最低限のシステム、の開発が求められる。

もちろん、アジャイル開発に向いた開発法には欠点もあり、初期の開発では業務全体に最適化されておらず、技法としても不十分で、将来的に継続的な改修が必要となる。

しかし、収益を出すことが難しいスタートアップ企業のに求められるのは

  • ビジネス(業務活動)が実施できること
  • 理解が容易な程度に単純なこと
  • リファクタリングが容易なこと

といった点である。これらはビジネスの存続・発展のためには重視されるだろう。

立食 vs コース

さて、機能の抜けが無く良い設計のソフトウェア開発と、リファクタリングを前提に最低限の機能から実装する方法は、本格的なコース料理を提供するレストランと、メインの料理を中心に立食で提供するレストランの様に戦略が異なる。

今後も発展するだろうが、ブームは過ぎるかもしれないし、立食で無くなるかも知れないが、回転率を重視する店は今後も存在するだろう。逆に、コースを提供するレストランは淘汰が進むかもしれないが、こちらも全てが無くなることは無いだろう。

それぞれに特長があり、調理師に求められるスキルも異なる点があるだろう。互いに相手のやっていることは、自分のやりたいことではないと言うかもしれない。

しかし、相手の立場に立ってその戦略を見たとき、自分の技術に書けている点や自身の強みが見えてきて、技術を磨くための肥やしになるだろう。

おわりに

今回の議論はとても興味深く、とても参考になる。その背景には感情的な対立でなく、若い人にわかって欲しいとか、偏った考えを持って欲しくないという前向きなものだ。

すでに若いとは言えない年だが、色々と学ばせていただいた。今後もぜひ前向きに議論を続けていただき、技術の発展に貢献していただきたい。

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[#TiDD] プロジェクトを成功させるチケット管理

QuaSTom高品質ソフトウェア技術交流会 2017年度第2回例会で講演させていただきました。

Redmineの勉強会ではないので初心者の方が多いかと思いきや、9割の方がチケットシステムを使われていて、そのうちTracが24%、Mantisが8%、残りがRedmineを使われていました。

幹事の松谷さんに用意していただいたグループディスカッションも、みなさんのお悩みや経験で盛り上がりました。やはり、メンバーにきちんと理解してもらえないとうまくいかないようです。

同じような議論は、90年代後半以降のプロセス改善ブームの頃にもありました。みなさんの意見をうかがっていると、やはり「ツールの導入はプロセス改善である」という思いが強くなりました。

ディスカッションへのコメントで「ゴールはプロジェクトの成功」とお話ししたことや、講演のおまけでお話しした「サーバントリーダーシップ」もリーダーシップの議論をされているとのことで喜んでいただけました。

久しぶりに大いに刺激を受けることができました。ありがとうございました。

おまけ

講演の仲であまり詳しく説明しなかったチケット駆動開発のレフトウィングとライトウィングのお話は、以下の発表が元になっています。

[#redmineT] 裾野が広がるRedmine「チケット駆動開発導入のヒント - 自律と規律 -」

(今回はお話ししませんでしたが、改善にはフィードバックやタイミングも重要だと思っています)

この発表の際にも使わせていただいた乗松さんの資料(PDF)の23ページ「SPIモードの遷移」は認証の罠を標準化の罠に読み替えるとツール導入にも同じような問題が起きると思いますので、参考にしてください。

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アジャイルジャパン大阪サテライト2017の感想

SS2017のポストイベントがなくなったので、 急遽スタッフとして参加しました。


(1)キーノート:シンアジャイル(Joshua Kerievsky)

モダンアジャイルについての説明。タイトルはAgileJapan2017のタイトルにあわせて変更されたようです(シン・ゴジラをまねた?)。

個人的にアジャイル開発のタイムボックス管理は、作業タイミングを固定化するので超短期開発にはフィットしないと思っていました。Kerievsky氏は早くからタイムボックスを守るよりも顧客のメリットを考えようと言われていたそうです(そのとおり!)。

提案する新しい4つの原則は従来のアジャイルマニュフェストに対応しながらも、顧客やソフトウェアの安全性に配慮したものでした。

講演概要
http://www.agilejapan.org/session.html#session01

Agile 2016の基調講演: モダンアジャイル
https://www.infoq.com/jp/news/2016/08/agile2016-modern-agile

チェンジビジョン/英和システム 平鍋さんの説明
https://anagileway.wordpress.com/2016/10/07/modern-agile-jp/


(2)ヴァル研究所 新井さんの講演

アジャイルを社内に広げる際の話。みんなが積極的になるように色々と工夫された中で、権限(部長)があるので、一部の活動が社内評価と連動するようにした。と言われていたので懇親会で質問させていただきました。

質問は、社内の仕組みと連動すると、義務感ややらされ感が出ると思うが、どのようにバランスをとられているか?

答えは、社員には積極的なできる人と、受身の人と両方いて受身の人も働いてもらわないといけない。ルールを決めても相手によって変えている。とのこと。

つまり、ルールはがちがちにせず、運用時に人を見て、たぶんチームによっても変えているのでしょう。エンジニアは、ついつい一貫性が気になりますが、個人個人を良く見ると言うことが重要だと思いました。

ちなみに、「上から見てなので、みんながどう思っているかはわからないですけどね。」と謙虚に言われていたのが印象的でした。


(3)コニカミノルタの久保さんによるエモイ話

人はなぜ生きているのか?それは人生を楽しむためである。

なぜ苦しみがあるのか?それは、いつかより人生を楽しめるからである。

いい人である必要は無い。人の顔色ばかり見る必要は無い。わかってあげるだけでいい。

そう、生きているだけで素晴らしい。

そう思いました。

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Node-REDから見えた未来 - 変わるもの、変わらないもの - SS2017 WG13

ソフトウェアシンポジウム(SS2017)では、前回紹介した論文発表のほか、ワーキンググループにも参加しました。

ワーキンググループでは各グループのテーマに沿って、参加者がそれぞれのポジションを発表して議論します。私が参加したのはWG13「ソフトウェア開発の現状と今後の発展に向けたディスカッション」で「Node-REDから見えた未来 - 変わるもの、変わらないもの -」を発表しました。

Node-REDは高機能なノード(モジュール)がたくさんあり、それらを組み合わせて高機能なシステムを効率的に開発できます。また、簡単にデバッグできるほか、デプロイが一瞬で、開発から確認の繰り返しを素早く実行できます。

このような環境を使っていると、面倒臭いことがなくなり、ソフトウェア開発に重要な作業を中心に実施する様になります。この重要なことはみなさん合意できますよね。という発表でした。

しかし、Node-REDのデモのインパクトが大きかったのか、Node-REDに対する質問で持ち時間が終わってしまいました。Node-REDを知ってもらえたので、良かったことにしておきます。

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Visual開発ツールNode-REDの導入によるプロセスの変化と考慮点 - SS2017 -

ソフトウェアシンポジウム2017(SS2017)で経験論文の発表をしてきました。経験論文とは研究論文の様に新規性はないものの、事例報告の様に経験を報告するものですが、問題設定や結果・考察を整理してより有効性や信憑性を高めて論文にまとめたものです。

今回はVisual IoTツールと呼ばれているNode-REDのアンケート結果を報告しました。ソフトウェア開発にツールは欠かせませんが、その導入報告はあまりありません。上流のツールであれば、コンサルタントに依頼することもできるかも知れませんが、下流のツールは小さい規模から始めることが多く、導入経験は他の人にも役に立つと思ったからです。

発表ではNode-REDの基本、長所・短所の説明と共にデモもしました。基本的な Hello World のノードを入れ替えてPathをセットするだけで、そのビジネスロジック(文字列の代入)をそのままWebサービスにできる様子をお見せしました。

このようにNode-REDは確認しながら開発するので短期間に品質の高いソフトウェアを作ることができ、アンケートにもある様に非同期処理が簡単に扱えます。その反面、ある程度の規模になれば、データやアーキテクチャなどの設計をきちんとしておかないと複雑になってしまいます。

そういった知識を持ち、ふさわしいプロセスで開発しないとうまくいかないことがアンケートからわかりました。まとめると

  • ツールの知識やノウハウを共有 する
  • 特性を活かした設計を行う
  • 実装を繰り返して常に確認する
  • 主体的にプロセスを変更し、品質 を上流から作りこむ

となり、これは、モダンアジャイル

  • 人々を尊重する
  • 安全な状態を前提とする
  • 素早い実験と学習
  • 価値を継続的に届ける

の基本理念と対応していて、Node-REDの良い導入が開発のアジリティ(機敏さ)を高めると考えられます。詳しくは以下の論文を読んでください。
(実は最終原稿の段階でモダンアジャイルの基本理念と対応していることに気付いたので追加しました)

Node-REDから見えた未来 - 変わるもの、変わらないもの - SS2017 WG13 につづく

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複合主キーの扱い方

緊急開催:複合主キーは必須なのか?<第55回IT勉強宴会Light> に参加しました(主催者まとめ)。

議論の発端は渡辺幸三さんの「単独主キー専用環境」と賢くつきあうためにという記事。

乱暴に説明すると「データベースではきちんと複合キーを使うべきだ。OOPだからといってカスケードキーでいい加減に作るから、あとでわからなくなって保守ができなくなるんだ。ばかやろう!」ということ。

ここにはいくつか議論をしないといけないことがあります。一部追記したスライドを元に説明しましょう(追記部分は灰色の小さい文字になっています)。


RDBだから複合キーを使わずにできてしまう

渡辺さんのブログを読んでいると、RDBなのになぜ複合キーを使わないのか、という気持ちが透けて見えます。でも、実は多機能なRDBだから複合キーを使わずにできてしまうのではないでしょうか?

複合主キーを持てないKVSや連想配列があります。これらを使うとき、シーケンスの管理が
難しいこともあり、「キー1_キー2」のようにして開発しています。

このことから考えると、RDBなのに複合主キーを使わないのではなく、RDBだからサロゲートキーを作りやすいので、複合キーを使わない開発が簡単にできてしまうのだと思います。

つまり、単独主キーで開発を安易に行うことが問題です。

本来、複合主キーで表現されるデータをどう扱うかは、モデリングの問題ではなく実装の問題です。

複合主キーを使わないのは実装の都合なので、そこにある危険性を周知することが重要だと思います。

(もちろん、、モデリングしているのはあたり前としてです)


オブジェクト指向だから単一主キーとは限らない

渡辺さんのブログでは「OOP好きからは『テーブルに別途ユニーク制約を置くなり、クラスの中に制約のためのロジックを盛り込むなりすればよいだけではないか』と反論されそうだが、」と書かれていますが、それは時代に流されている人ではないでしょうか?

オブジェクト指向システム分析―上流CASEのためのモデル化手法には「オブジェクトのそれぞれのインスタンスを唯一に識別する1以上の属性の集まりは,そのオブジェクトに対する識別子です。」と複合主キーを認めています。

ソフトウェアを開発する場合、様々な視点で特徴や制約をモデリングしないとシステムの詳細は表現できないと思います。複雑な要素を如何に矛盾なく、いかにわかり易く統合していくかが設計者の腕の見せ所では無いでしょうか。


保守性の考慮

もちろん、実装の都合でモデルと異なる方法をとったり、モデル自体を実装に最適化することもあるでしょう。しかし、その場合は注意深く開発する必要があるでしょう。

渡辺さんのブログには「複合主キーを扱えない」という環境自体の特性ゆえの問題が書かれています。

  • エンティティのまとまりやそれに適用される複雑な制約が、開発者自身によって見い出されない
  • 使いづらく保守しにくい業務システム開発が生まれる
  • 単独主キーだけを用いた設計スタイルに逃げ込んでも、問題が見えにくくなるだけで事態はさらに悪化する

つまり、きちんとモデリングされず、保守しにくいシステムが作られ、どんどん深みにはまってしまいます。

このように考えると、複合主キーを使ったモデルそのままに実装できるならDBを見ればわかるかも知れませんが、モデルと異なる実装ならモデルからどのように実装に持ち込んだかわかる様にしておかないといけないと思います(もちろん、モデリングしている前提です)。


おわりに

渡辺さんの主張をより単純化すると「バグを出すなバカやろう」だと思います。

なぜ、バグが出るか、それは「複合主キー環境でないから」ではないと思います。たぶん、複合主キーが使えても同じようなDB設計をするのではないでしょうか?

もし、きちんとモデリングができるなら、本来必要な制約を理解し、わかり易く制約を実装し、必要ならドキュメントも作成するでしょう。

「もともとDB設計というものは高度な専門職」とは思いません。もし、そうなら、ソフトウェア開発のインタフェース設計、システムチューニング、保守、運用、すべて高度な専門職です。

エンジニアリングは一定の努力で誰もが習得できる専門知識です。きちんと勉強して、危険性を理解すれば良いと思います。

問題はすでにできてしまったお客様のシステムをどうするかです。危険性を考慮せずに勝手な思い込みで作られたやっつけシステムは、問題が起きた際は大変だと思います。作り直したくても予算も期間も無いからです。

担当される方のために祈らずにおられません。

彼らをお赦しください。自分が何をしているのか知らないのです(ルカによる福音書/ 23章 34節、日本聖書協会)

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「深層学習の概要とドメインモデル」に参加してエモーションチップを考える

もっとも印象的だったのは、以下の言葉です。

適切に学習すれば、有限個のニューロンで任意の連続関数を近似できる
(universal approximation)

いつもお世話になっているIT勉強宴会で深層学習(ディープラーニング)のお話を聞いてきました(幹事の佐野さんが深層学習の概要とドメインモデル<第53回IT勉強宴会>に詳しくまとめられています)。ここでは、個人的な感想をまとめます。

ニューロンは判断するもの

深層学習の基本であるニューラルネットはは多層のニューロンから構成されます。このニューロンというのは「脳神経系における情報伝達を模した数学モデル」で、しきい値を超えると発火する、いわば入力に対する判断機構です。

ニューロンは20世紀からある技術で、ソフトウェア障害の有無などの判断をする論文などもありました。しかし、他の統計的手法がよく使われているのは、ご存じの通りです。

多層化による能力向上

その後、技術の発展や計算機能力の向上などでニューラルネットを多層化できる様になりました。ここで出てきたのが、初めに挙げた言葉です。

ニューロンを組み合わせれば何でも判断できる。そんな夢が広がりました。しかし、現実は厳しく、精度があまり上がりませんでした。

フレームワークの発展

近年の深層学習の話題を見ているとスゴいものばかりで、なぜだろうと思っていました。それらは、ニューラルネットの層に意味を持たせたり、途中で分岐したりと、より人間の脳に近づく事で精度が上がったそうです。

SF好きの私などは、より人間の脳に近づけばいつか人間の様に意識を持つのかと期待してしまいます。しかし、そこで障壁となるのが最初の言葉です。あくまで近似なのです。

機械学習あるいはデータ少尉の限界

新スタートレック(TNG)に出てくるデータ少尉を見ていると、機械学習の限界を感じさせます。人間と共に宇宙船の士官として働き、頭脳明晰、記憶や情報検索にすぐれ、技術を組み合わせた新しい提案や、過去の音楽家の味付けをして演奏する事が可能です。

しかし、友人がいても、悲しみや喜び、愛情を感じる事はありません。大切な人を失っても「何かが抜けたような」認識を持つだけです。仲間を作ったり、敵と戦うなど、本能的な能力が必要なのでしょう。

実はデータ少尉には兄がいてエモーションチップによる感情を持っています。しかし、性格が悪く失敗した様です。

おわりに

深層学習の発展によって人間の能力を超えるものが作られるかも知れません。しかし、それは人間が求めるゴールを実現するためのもので、ゴールを設定して深層学習の構造を作るのは人間です。

深層学習が話題になり出した頃、データを大量に突っ込めば答えを出してくれる様に勘違いしていました。でも、そんなうまい話は無く、良いものにするには人間の力が必要です。

エモーションチップが実現できるかどうかはわかりませんが、システムを作るのは常に人間です(今のところ)。ソフトウェアに関わるものとして、深層学習を野次馬的に眺めたり、変に恐れたりせず、ふさわしい場面があれば、ぜひ利用したいと思いました。

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ランチェスターの法則にソフトウェア開発を学ぶ

はじめに

ランチェスターの法則(Wikipedia)はオペレーションズ・リサーチの数理モデルの一つで戦闘を2つのモデルで表現したものです。

この法則はランチェスター経営やグー・パー・チョキ理論などで知られていて、導入期などで力を一点に集中させる弱者戦略(グー)、 成長期の後半で多様な展開(ボリューム)で勝負する強者戦略(パー)、伸びが鈍化し衰退しだすと多様化を整理する(チョキ)。

ソフトウェア産業で考える

これはソフトウェア産業にもあてはまります。自分たちの立ち位置と世の中の情勢で戦略を考えます。

立ち位置は会社の規模ではありません。マーケットに対して強者であるか、弱者であるかの判断が必要です。

ソフトウェア産業は顧客の経営状況に影響を受けます。従来は新しい予算の切り替わるまでの期間が長く、半年から1年ほど遅れて影響が出ていました。

近年は世の中の情勢に応じて予算が変更される様になりましたので、これにあわせて利益重視(グー)、売り上げ重視(パー)、縮小(チョキ)を変更しないといけません。

参考:ランチェスターの法則と売り上げ、利益、利益率

ソフトウェア開発を考える

ソフトウェア開発においても同じような状況があります。プロジェクトの開始時期は、コミュニケーションや構成管理の基盤を作る、横展開の元になるひな形の開発し品質を向上させる、自動化を進めて手作業を減らす、など効率化を狙った施策を取ります(グー)。

やがて効率化の施策がすすむと、ガンガン開発するフェーズに入ります(パー)。しかし想定外の事象が起きた場合は見極めが必要です。

上司の視点で見ると、ついつい人を投入したくなると思いますが、状況をきちんと見極める必要があります。場合によっては戦略を転換して、必要に応じてスパイクやプロトタイピングといった「グー」戦略も必要でしょう。

ソフトウェア開発でも「チョキ」の戦略が最も難しいでしょう。プロジェクトが収束に向かう時、人を減らす必要もあるでしょう。あらかじめどのように引き継ぐか、誰を育てるかを考えて開発を進める必要があります。いわゆる「段取り8分」です。

参考:実装優先時の考慮点 その1 - プロトタイピングとスパイクソリューション -

状況を把握するには

いかにアンテナを張るかが重要です。顧客とのちょっとした会話が重要です。信頼を得て、関係を良好に保ち、時にはストレートに話して理解していただくと良いでしょう。

開発者の状況もよく見ておく必要があります。出勤時間や退勤時間、休み時間の過ごし方など、ちょっとしたことから、前向きに取り組めているか、負担になっていないか、を見極めます。

「現地現物」と言いますが、ほんの少しの時間であっても直に接して、状況を感じ取る事が重要です。

参考:[#TiDD] プロフェッショナルは本物で確認する

おわりに

ソフトウェア開発と戦略的な考え方は共通点があると思っていました。ランチェスターの法則を見直すと、そこにも戦略的な要素がありました。

グー・パー・チョキの分類はわかり易いので、今の状況を考える際にがどれに当てはまるか考えてみてください。色々と見えてくるかも知れません。

もし、上司がおかしいと思っても、それを愚痴のネタだけで終わらせないで下さい。あなたには、説得する、異動・降格を待つ、昇進して追い越す、転職する、といった選択肢があります。

ランチェスターの法則は様々なものに当てはめる事が可能です。現在のポジションと状況に応じて未来を選択してください。

参考:[#agileto2012] 『チェンジ!』の考え方 ~マネしやんと!~

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