論文研修会最終回 - タイトルとあらましは論文を示す -
SRA Advent Calendar 2019 の記事です。
論文を書き方に最も大切なことを書きます。
ふりかえり
ここまで論文の書き方を説明してきました。
そのポイントは構造で、論理的思考につながるもので技術文書全般に利用できるものです。
私たちが学んだ起承転結(wikipedia)ではなく、パラグラフライティングを基本としたあらかじめ全体像や見通しを示した後に詳細を示す構造です。
重要性
パラグラフ(段落)だけでなく文章全体がその示す単位の全体像や見通しから始まっているのですから、タイトルやあらましは論文そのものの価値を示す最も重要な部分です。
「論文の採否はタイトルとあらましで6~7割決まる。いや8割かもしれない」そう教わりました。実際、論文の査読の際はタイトルとあらましで大まかに担当者が決められたりするでしょうし、論文を読む際もタイトルとあらましで期待を高めたり、困惑しながら読み始めます(ちなみに、タイトルとあらまし、はじめに、結論と読んでから他の部分を読む人が多いようです)。
何を書くか
端的に言うとアピールすべきことです。論文というのは、書きたいことを書くものではありません。もちろん採録されることだけが目的ではないですが、中身を理解してもらって採録されなければ論文を読んでもらうこともできません。書きたいことではなく、書かないといけないことを書いてください。
論文は研究者あるいは現場の人が研究成果や経験を書くもので、研究論文なら新規性、一般性、信頼性、経験論文なら有効性、一般性、信頼性を評価されます(シンポジウムなら参加者のニーズなどが入る場合もあるでしょう)。ですので、文字数は少ないながらもタイトルやあらましにこれらの内容を書書ないといけません。
タイトルには色々な流派がありますが、例えば「Aを目的としたB法によるC(問題)の(対策)D」のように対象分野、問題、手法、どこまで解決しを明確にするとともに示します。こう書くと一般性に制限を付けたように読めるかもしれませんが、そもそも論文とはこれまで積み上げられてきた研究という巨人の肩に乗って、少しだけ良くしたものです。適用分野明確にすることや方法を示すことで信頼性を上げています。一般性や有効性はXXを目的としたで示します。新規性は問題と解決法の組み合わせで示すことが多いようです。
あらましにも色々な流派がありますが、整理しやすいパターンとしては以下のような項目を書いています。
- 本論文ではXX(タイトルの内容)を示す
- YYによる評価の結果、ZZだとわかった
- XXを用いることで、これまで××だったAがより〇〇に△△できるようになった
さらに必要なら、課題と将来性にふれることもあります。
タイトルとあらましは最後に書く
タイトルとあらましは論文の顔です。明確な問題設定がなければ書くことができません。開発現場の人が論文を書く際に難しいのは、経験しすぎていることです。自分の実現したことも、なかなか端的に表現できません。
そこで「はじめに」を書いて問題を絞っていくことから始めましたが、結論まで書いたところで一度「はじめに」を見直してください。問題とはやったことの裏返しです。解決したことがどのような問題を解決したかをよく考えて、必要なら書き直してください。
はじめにの見直しができたなら、ようやくタイトルとあらましを書くことができます。発表準備にタイトルとあらましが必要になるかもしれませんが、それはあくまで仮のものです。問題設定がふらついているのに魅力的なタイトルと思ってしまうとそれに引きずられて、わかりにくくなりますので、注意してください。
おわりに
これまで説明した論文の書き方を踏まえて、タイトルとあらましの書き方を説明しました。ここに書いた内容は筆者の限られた経験から書いていますので、他にももっと良い書き方があるでしょう。ぜひ、多くの論文を読んであなた流の書き方を作ってください。その際にこのブログが少しでも役立ったなら幸いです。
さて、今回の研修は論理的思考を身に着けてもらうために実施しました。論文を書く行為は、説明しないといけない内容を、決められた構造に合わせて、組み立て、整理することです。整理された内容は構造化されていますので、検索して容易に取り出すことができますし、組み合わせることも可能です。また、新しい情報に出会った際にも応用や修正が可能でしょう。(参考: 実装者のための計算量のはなし - O(logN)などをわかり易く説明しました -)
説明しないといけない内容は、相手の求めていることです。相手の求めていることに合わせて、説明し、アピールする、そういった当たり前のことが難しいのは、説明すべき構造に合わせて単純化できていないからです。論文の書き方を応用することで、話が長い、理解されない、勘違いするといったことが改善されるでしょう。ぜひ、実社会に役立ててください。
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