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決定をできるだけ遅らせる -「現場で役立つシステム設計の原則」深読み -

増田さんの「現場で役立つシステム設計の原則」に関して様々な議論があり、私も立食とコース料理 -「現場で役立つシステム設計の原則」批判の一考察 -を書いたあと、様々な議論をさせていただきました。私なりの本の読み方が見えてきたのでまとめておきます。

この本はアジャイル開発(以下アジャイル)がベースになっていると思います。特にリーンソフトウェア開発のプラクティスである「 決定をできるだけ遅らせる」(リーンを考える - 無駄と必要なアソビ -) の考え方が透けて見えます。

この考え方は上流工程をもつ従来の開発方法(ウォーターフォールと呼ぶとリリースが1回とか工程間で判定会議がいるとされることもあるのでこう表現します、以下、従来法)とは大きく異なる考え方です。

従来法の考え方

従来法で上流が重視されます。これは、ベーム先生の後工程になると修正工数が指数的に増えると発表されたからです(「要求は変化する。Boehm は間違っていた、と DeMarco が暴いた。」というYourdon のブログ:An Agile Way:オルタナティブ・ブログ)。後工程になれば修正が大変だからと上流工程で頑張ることで、開発のリスクを減らそうとした訳です。

話はそれますが、ベーム先生はその後の繰り返し開発やアジャイル開発につながるスパイラルモデル(リンク先はWikipedia)を提唱されたり、後述の「アジャイルと規律」を執筆されるなどアジャイル開発に貢献もされています。IEEE Softwareの紙面でケント・ベックさんとXPについて議論されていたので、からかわれたのじゃないでしょうか。

決定をできるだけ遅らせる

話を戻して「決定をできるだけ遅らせる」というのはYAGNI(You aren't gonna need it)に通じる考え方です。従来法とは逆に、変更の可能性を考慮して、どうしても決めないといけない時(最終責任時点)まで決定遅らせるというプラクティスです。

例えば車のドアのところのデザインがかわる可能性がある場合、ドア部分の金型を削ってしまわずに少し残しておくといった対処で、後から変更が生じた際に調整できるように決定を遅らせるというプラクティスです。すべての事を決定しておかずに余裕を持たす事で、選択肢を残せます。

従来法のソフトウェア開発に置いても、決めきれない内容はペンディング、TBD、TODOなどといって後回しにしたり、手軽な方式に仮決めしておきますよね。それを時間切れだからとあきらめてするのではなく、変更の可能性を意識して選択肢を残す目的で実施するようなイメージです。こうすることで多大な手戻りのリスクを減らします。

「現場で役立つシステム設計の原則」の深読み

このような視点で読むと、仮決めする際のデフォルトが示されているように思います。オブジェクト指向はこう理解して、こう言う風に考えるとうまくいく、短いイテレーションも乗り切れるよ。という風に読めてきます。

上記は私の勝手な忖度ですが、増田さんの講演資料にある批判に対する回答を読むと、増田さん自身も決定を遅らせる考え方をもたれていることがわかります(現場で役立つシステム設計の原則)。

この5ページの「すべてのカラムが Not Null は非現実的?」に対して「実際にやっている、特に困っていない、SQL のスキル+ IDE サポート」という回答からも、決定を遅らせるスタンスが感じられます。

批判を考える

このように考えた上で、この本に対して書かれている批判を考えると、とても良い指摘ではあるものの、「決定をできるだけ遅らせる」こととと対極にある「はじめのうちからしっかり作る」ことを勧められている様に思います。

もちろんリスクを減らす目的で決定をできるだけ遅らせているのであり、「はじめのうちからしっかり作る/設計する」方がリスクが減るのであれば、実施すべきでしょう。

kent4989さんのブログ勘と経験と読経でその方法が紹介されていました(アジャイルとデータモデル、DB進化設計のこと)。アジャイルにこだわるならイテレーションゼロで吸収する。それ以外なら前段階で供給開発、あるいは、RUPなどの反復開発手法の併用を勧められています。最近ではたなかこういちさんが、アジャイルでスタートアップも、軌道に乗ったらUPへ移行すべきときが来る、というものかもしれないと言われています。

2017/9/8追記
アジャイルにこだわる方法としてFDD(リンク先はWikipedia)もあります。
[#Agile] FDDはアジャイル開発、ハイブリッドアジャイルは、、
[#TiDD] 手分けするより助け合い - FDDとチケット駆動開発 -

2017/9/14追記
この本の特徴の一つは決定を遅らせる際のシンプルなデフォルトを示していることです。イテレーション(スプリント)をうまく回せるか不安だった方や、ベロシティ(開発速度)が上がらなくて困っていた方には、大いに参考になるでしょう。

その方法は独特です。批判の多くは一般的な方法を主張し、その良さを指摘したものです。批判の実践はこの本に書かれたシンプルさを損ないますので、どちらを優先すべきか良く判断すべきだと思います。

もし、批判を読んで今までの開発が不十分で問題だったと思われるなら、批判は一部だけを示したものですので、より広く検討して上述の実施方法などを検討する必要があるでしょう。

アジャイルにこだわるかの判断

批判を別にしてもアジャイルにこだわるべきかどうかは考えておく必要があります。平鍋さんのブログデータモデリングなきアジャイル開発は危ういか?では、プロジェクトや製品の文脈によって変わるとされていますし、上述のたなかこういちさんのブログでも「バックオフィス側の管理業務」など業務が大きな要素であることは間違いないと思います。

一方、ベーム先生の「アジャイルと規律」ではアジャイルの5つの重要要因として、規模、重要度、 変化の度合いといった業務に関わる要員のほか、人、文化が挙げられています。

人に依る違い

設計に関して渡辺さんが「システム設計と創造性」の中で“まずは「システムが扱う現実の全体をぼやーっと理解する」ことを目指せばよい”とされていて、私もそうしています。

しかし、ふと思い出すと小学生のことです。私は作文の時間の半分以上をあーでもない、こーでもないと書く内容を考えていました。成績は悪くはなかったのですが、私よりもできる人の中には、作文の時間にすぐに書き出す人もいました。設計でも同じ様に人によって作りながらの方がうまくいく人がいるかも知れません。

そう思うと、書籍アジャイルサムライに

と書かれていたことが設計にも言えるのではないかと思います。

おわりに

増田さんの本に関しては、上記のような視点でとても興味深く読ませていただきました。できれば、続編あるいは改訂版のような形で、アジャイルとリファクタリングによる進化のさせ方について、もっと書いていただければと思っています。

なお、個人的なアジャイル開発に関する考えは、[#Agile] アジャイル開発の課題と対策 その1に書いています。現場でスクラムやXPの様なタイムボックス型管理をしているアジャイル開発はしていませんが、いわゆるモダンアジャイルを実践しているつもりです。

2017/9/8追記

アジャイルマニュフェストはオブジェクト指向の有名人が集まって決めたので、なるほどと思いました、サブタイトルからもオブジェクト指向からの説明の方がしっくりくるかも知れません(私には書けませんが)。

これに関連して「アジャイルプロセスでは、本質的なデザインやアーキテクチャに関する意思決定をできるだけ遅らせることができます。」というマーチン・ファウラー氏の言葉を見つけてニワトリとタマゴの関係だと思いました。

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