「モノ書き」 - 山口 英先生をしのんで -
若い頃にJUSで発表していた(ISO-2022-JP)ので、たぶんシンポジウムなどでお見かけしていたと思いますが、山口英先生をキチンと認識したのは奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の1期生として入学してからです。
世の中では初代情報セキュリティー補佐官とかUNIXで有名だと思いますが、私にとって山口先生は、やはり先生です。
NAISTのハッカー
NAISTの1期生として入学した頃、大学は工事中で工事現場の中に作りかけの地球防衛軍のビルがあるような光景でした。新設の大学なので予算は豊富だった様ですが、ハードはあるものの細かな環境が整っておらず、色々と工夫する必要がありました。
そこで、旗を振られたのが山口先生でした。 学生に声をかけて環境を整備するボランティアを集められました。私もあまり貢献できなかったのですが参加していました。
フリーウェアのポーティングなど、自主的な活動や研究と絡めた活動など、どんどん環境が整いました。その後の学生さんたちが使われたツールもたくさんあると思います。
その集まりだったか、補習的な講習だったか、様々なレクチャーを受けました。LaTeXの使い方も教わりました(TeXも教えて欲しいというとLaTeXを使う様に言われた記憶があります)。
授業
いつの間にか国のお仕事をされていた山口先生ですが、とてもわかり易いネットワークの授業だったことを覚えています。
試験ではモバイルIPについて論述する問題があり、頑張って書いた記憶があります。試験会場で「汚くて読めない回答は0点にする」という主旨を言われましたがすでに遅く、とにかく思うところをいっぱい書いてやろうと答案用紙の裏側まで書きました。
とても読みにくい汚い回答でした。評価は期待していなかったのですが、頑張って読んでいただいたようで優をいただきました。指導は厳しくても、温情のある先生でした。
モノ書き
忘れられないのは授業中の言葉です。当時のモバイル神機であるGATEWAY 2000 HANDBOOK 486で宿題の期限を決めながら、自身のことを「モノ書きが仕事」と言われたのを覚えています。
当時、山口先生はUNIX関係の雑誌に記事を書かれていたので、あまり深くは考えなかったのですが、これが私にとって大切な言葉になりました。
疑問の解消
それまでの大学院は研究者のもので、企業で研究していれば大学でより深める、学生であれば先生に、というのが普通の認識でした。NAISTは私の様に一般の社会人を集めましたので、さてどうしたものかという疑問がありました。
ソフトウェア工学の研究は対象の特定状況で役に立つものですが、常に役立つとは限りません。特に規模の小さい開発では統計情報も使えず、会社に戻っても知識が活かせるとは限りません。
たまたまチャンスが得られて留学した私も、何年かすると陳腐化する知識をどう活かせば良いかと悩んでいました。そこで思い出したのが山口先生の言葉です。
「モノ書き」というのは複雑な内容を整理して人に伝えるのが仕事だと思いました。大学院では論理的思考を学ぶと言いますが、論文作業を通じて世の中の問題を整理し、解決法を示し、効果を示すのだと考えることができました。
大学院で得られる知識や人脈は時間と共に価値が下がりますが、「読み書きプレゼン」を通じて学んだ物事を論理的にとらえて伝える能力は、いつでも、どこでも役に立ちます。
大学院は「読み書きプレゼン」など(低レベルのこと)を学ぶ場でない。などと言われたこともありますが、このような基本的でどこでも役に立つことを学んだと認識できたのは、山口先生のおかげだと思っています。
おわりに
研究室でお世話になった訳ではないですが、私の人生に大きな影響を与えていただいた先生の一人なので書かずにはいられませんでした。
実は私の方が少し年上で、驚きと共に残念な気持ちでいっぱいです。分野は違いますが、学んだことを活かしながら社会に貢献したいと思います。
最後になりましたが、ご冥福をお祈りします。
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