求められるリーダー像と羊飼い型リーダーシップ - 「リーダーシップ3.0」の咀嚼 -
なぜリーダーシップやプロセスのことに興味があるかを考えると、自分がうまくいったと思えるプロジェクトを説明したいからです。そんなモデルとして今回は、書籍「リーダーシップ3.0」にも載っていた羊飼い型リーダーシップを考えてみたいと思います。
とはいえ、昔からこのような仕事のやり方をしているかと言うと、必ずしもそうではありません。昔はどちらかと言うと外科医チーム的に隅々に目を行き渡らせてコマンドコントロールしていたように思います。しかし、様々な状況に合わせていくうちに羊飼い型リーダーシップにたどり着いたのです。
コマンドコントロールの限界:規模
実際のところ、うまくいく場合はコマンドコントロールの方が楽です。リーダが概ね予想できる時は、細かなところまで指示できますので、それを管理すれば良いからです。
しかし、規模が大きくなってくると一人では管理できません。そこで、サブチームに分けて、それぞれのサブリーダーに自分の代わりにコマンドコントロールを任せることになります。
こうなるとコマンドコントロールの良さは少なくなります。コマンドコントロールはリーダーの判断で直接コントロールできる機敏さがメリットだったのに、各チーム間で調整が必要になって、全体の動きが鈍くなるからです。
コマンドコントロールの限界:変化
また、あまりにも変化が激しい場合、コマンドコントロールには限界があります。リーダーによってコントロールされるので、リーダーの判断がチームの判断になるからです。
そこで、チャレンジングな仕事の場合は手分けをして調査をする必要がありますが、それをうまく集約できないとリーダーは判断できなくなります。
効率化するには権限を委譲して一定の判断をしてもらってから集約することになるのですが、ビジョンが明確でないとバラバラな結論になってしまいます。
コマンドコントロールの限界:カリスマ性
そこで、全体を調和させる目的でカリスマ性が求められます。その分野に長けた人がビジョンを示すことで、全体に一貫性を持たせるのです。
この方法はカリスマ的に活動できる間はうまくいくでしょう。成功のポイントは中長期の社会の変化に対して、適切に情報収集して対応できるかどうかということになります。
カリスマ性を発揮して豪腕を発揮すればするほど、下の人間は従順になりがちです。反対意見が通りにくいので意見が上がりにくくなり、世の中の変化に対応できなくなる可能性があります。
求められるリーダー像
ここまでの流れを考えると、リーダーがボトルネックになっていることがわかります。リーダーは負担を減らし、方向性を示すと共に、意見を集約しないといけません。
もちろん、規模や先進性、社会の動向などによって求められるリーダーシップ像は異なります。しかし、小規模で多機能なソフトウェアを技術の進歩が激しい基盤上で、社会の変化に対応させるには、従来のコマンドコントロールは難しくなっています。
そこで、求められるリーダーシップは以下のようなものです。
- 権限を委譲して自律的な行動を促す
- ビジョンを示してチームを導く
- 意見を出し易くしてコミュニケーションをはかる
これは、経験的にうまくいくと思っています。ボトルネックになることなく、リーダーの能力を超えたプロジェクトを成功に導きます。そして、サーバントは革命の言葉。ビジョンを示せ! - サーバントリーダシップ私論 -に書いた様に、自分の思い通りのソフトウェアではありませんが、自分も含めてチームの持てる力を最大限に発揮して、大きな喜びが得られます。
これまで、このようなリーダーシップはサーバントリーダーシップだけだと思っていました。しかし、羊飼い型リーダーシップがより説明が容易だと思います。
羊飼い型リーダーシップ
羊飼いは羊を飼う仕事です。羊の群れをえさ場に連れて行ったり、柵の中に入れるには群れになる習性を利用して、先頭になる羊を後ろから行かせたい方向に導きます。
羊飼いは前面に立つことは少ないですが、その行動は積極的です。危険な状況では、杖で羊をつついたりもしますし(リーダーは背後から指揮をとり、 「集合天才」を活用せよ:要無料登録)、一人で導くことが難しい場合は、牧羊犬にあたるコンサルなども使います。
(羊飼い型リーダーシップの説明では書かれていませんが、実際の羊飼いは餌を持って先導することもある様です。なんでもするということでしょう。)
羊と羊飼い
羊というのは恐がりでまとまって行動しますが、山羊は行動的で木に登って樹皮を食べたりします。そのためか終末論では、神様が良い羊と悪い山羊に分けると言われています。
また善き羊飼いというたとえがあって、1匹の羊がはぐれたら、99匹の羊を置いて、命がけでその1匹を探し出すとされています。(参考:Wikipedia)
つまり、羊飼い型リーダーシップには、性善説に基づいて、一人一人と向き合って導くイメージが暗黙のうちにあると思います。
おわりに
書籍「リーダーシップ3.0」(支援者としてのリーダー - 「リーダーシップ3.0」を読んで -)に示されている歴史を自分なりに書きました。この業界に入って以来、ソフトウェアはドンドン複雑に、かつ、小規模になり、技術や社会の変化も激しくなりました。そのような変化に対応できるのは、ビジョンを見据えつつも各人が成長し、それぞれの能力を最大限に発揮できる組織です。
羊飼い型リーダーシップは、チームにビジョンを示しつつ後方から導きます。チームが成長する様に支援するだけでなく、危険な状況では様々な手段を講じて羊を守ります。チームはビジョンと自律的な行動によって、ゴールを達成できるでしょう。
以前、サーバントの歴史を追いました(古くて新しいサーバントリーダシップ)が、羊飼いはなんと紀元前5000年からある様です。7000年間熟成されたリーダーシップが、きっと新しい時代を切り開いてくれると思います。
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