標準化のトレードオフ その4 - 慣性の法則 -
ソフトウェアプロセスが、計算機上のソフトウェア(プログラム)と最も異なるのは、実行するのは人間であるという点です。
プログラムを変更すれば、すぐに動作が変わります。しかし、人間が実行するプロセスは定義を変更しても、正しく動作するとは限りません。
これは、人間はミスをするだけでなく、経験によって学習するので、以下のような特徴があるからです。
- 経験していない事は上手にできない
- 慣れたことに最適化されて考えなくなる
- しばらくやっていなかったり、条件が変わるとできなくなる
このように経験によって、慣性の法則とでもいうべき物が存在します。「本当にアジャイル開発がしたかったら会社を移った方が早い」と言われる方がおられますが、慣性の法則を考えると確かにそういう考え方も一理あります。
そうは言っても、アジャイル開発に限らず組織にとって必要な技術なら、導入しないといけません。そこで、以下のような方法が考えられます。
トレーニング:実践する事で経験を積む事ができます。アジャイル開発の様な繰り返しは、経験を積む上で効果的でしょう。
継続的な改善:ルールが読まれるのは慣れる迄ですし、繰り返しているうちに失敗も慣れてしまいます。KPTによるふりかえりの様に、継続的に改善を考える事が大切です。
形式知の共有:ワークショップは効果的ですが、広がりが限定され、実践し続けないとできなくなります。理論やノウハウを形式知化して共有する事が必要です。
ここで大切なのは、最後の形式知化の共有です。SECIモデルのように、暗黙知を伝達が容易な形式知に変換して、形式知の組み合わせや編集によって体系化して新しい知識を生み出すことが必要です。
そうでなければ、改善を繰り返しても思いつきの繰り返しになるからです。技術を積み上げ可能にしなければ未来は切り開けません。
形式知化は特定の個人や組織ではなかなかうまくいかないでしょう。その事象が組織固有の問題か一般的な問題なのかの区別が難しく、関連する技術の体系化も困難だからです。
技術者に社外勉強会と言う場が必要なように、組織の発展にも社外勉強会などの外部との技術的なつながりを持ち、ソフトウェアエンジニアリングすることが必要なのです。
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