アジャイル開発の理解に必要な3つの視点
先日公開された、JEITAの企業ITに関する日米調査の記事を見ていると、日本がITのマーケットを開発する意欲に欠けている事がよくわかります。これは、諸外国ではITでマーケットを開拓する方法としてアジャイル開発が常識であるのに対して、日本ではアジャイル開発に対する理解が不十分([#Agile] アジャイル開発の課題と対策 その1)なためにこのような状況になっているのだと思います。
アジャイル開発はすでにアーリーアダプタの技術ではなく、一般的な技術としてCMMIやPMBOKでもアジャイル開発について書かれています。このような普及の理由は、XPなどのプラクティスの技術的側面やアジャイル宣言に見られるマインドなどの単純な視点では説明できません。開発、プロセスのルーツ、ビジネスの3つの視点が必要です。
【開発の視点】
開発の視点でアジャイル開発をみると、オブジェクト指向の流れを汲む最新の考え方や技術が見えてきます。
マインド:顧客への価値の提供を目的とした自律的な組織とサーバントリーダーシップ
プラクティス:責務を果たす信頼できるモジュールのチーム開発と組合せの保証
ツール:コミュニケーションの効率化とプラクティスの支援・自動化
ツールをプラクティスに含めて、これらをレフトウィングとライトウィングに分けて表現される事(An Agile Way)もあります(同様にチケット駆動開発も同様に分ける事もできます)。
【プロセスのルーツの視点】
アジャイル開発には複数のルーツがあり、それらは繋がっています。
繰り返し:不確実性や変化への対応からスパイラルモデルに始まり、RAD(Rapid Application Development)、そしてDECの成果がスクラムに生かされました。アジャイル開発では変化に対応できるように、スコープを変更しつつ開発します。
実践知:ホンダの流れを汲む実践知リーダーシップはオリジナルスクラム、SECIモデルをへてスクラム開発に活かされています。
ムダ取り:トヨタ生産方式(TPS)で始められたムダ取りの考え方で、リーン、カンバンボード、のほかアジャイルではありませんがTOCのCCPMにも影響を与えました。
【ビジネスの視点】
ビジネスの視点で見ると、アジャイル開発は変化に対応でき、改善を繰り返しながらより良いものを開発できます。また、ムダの少ない投資で新しいマーケットを開拓できます。
変化への対応:業務、環境、実現方法の変化に繰り返しの際のスコープ見直しで対応します。
ものづくり:段階的に作り込み、成果物を確認し、継続的に改善します。
企画・マーケティング:リーンスタートアップ、要求開発、DDDなどと組み合わせて、新しいマーケットを開拓します。
このように、アジャイル開発は技術だけでなく、プロセスやビジネスとも深く関わっています。日本の失われた20年の間、乾いた雑巾を絞りながら景気の上向くのを待ち望んでいました。その間に、米国ではアジャイル開発を中心に、IT技術を使って新しいマーケットを開拓していました。
【まとめ】
上記の様々な視点で分かるように、アジャイル開発には新しい技術や考え方が含まれていて、新しい産業の多くはアジャイル開発で行われています。アジャイル開発を学ぶ事で新しい技術を習得できますし、新しい仕事を求める場合には新しいビジネスと結びついたアジャイル開発は有望なマーケットでしょう。
SIerはオワコンとか、未だにウォーターフォール(WF)なんて、というつぶやきを見かけることがあります。それは、ここに挙げた内容が整理されずに語られていると思います。1次産業、2次産業、3次産業と社会は発展しながらも、必要な産業は残り、新しい産業で使われている技術を取り込みながら発展したように、SIerはまだまだ存続するでしょうし、WFが向いている開発もあります。
ブームというのは必ずさめてきます。ブームに乗って騒いだり、知名度を高めようと釣り針をたらしているだけでは限界がくるでしょう。いずれアジャイル開発もあたり前になって基本的な理解だけでは差別化できなくなり、本質的な理解が必要とされるようになるでしょう。その頃には従来の業務知識や大規模開発のノウハウが必要とされる場面も増えてくると思います。
技術者であるからには、常に自分の強みを意識すると共に、新しい技術を正しく理解する必要があります。そして、それぞれの立ち位置での問題に対してふさわしい形で適用し、継続的に改善する。それがアジャイル開発の目指すものを理解した技術者のあるべき姿だと思います。
一方、経営者は世の中の潮目を見極めて、必要な判断をする必要があります。古い雑巾を絞って景気が良くなるのを待つだけでは未開のマーケットを手に入れる事はできません。次の一歩を見定めて技術者を育てておき、時を見定めて果敢に攻める事も必要でしょう(そうしないと、経営者が最大の問題になり、技術者にピボットされてしまうかもしれません)。
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コメント
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アジャイルが技術だけでなく、プロセスやビジネスと強く関係があると、最近思い始めたものです。
私が探していたものを数年前に気付かれているようで、食い入るように各記事を読ませていただいております。
《アジャイル》という言葉は誤解が多いので日常では用いていませんが、いま世の中に求められている多くがこの中に凝縮されており、今の私のテーマは《アジャイル》を表面ではなく、本質で捉えることだったりもします。
取り留めなく大変恐縮ですが、とてもステキなblogに出逢いました。またコメントさせていただくかも知れませんが宜しくお願いいたしますm(_ _)m
投稿: 中澤 | 2013年12月16日 (月) 21時21分
コメントありがとうございます。
アジャイルには色々な側面があって、ようやく繋がってきたような気がしています。
ぜひ、またコメントして下さい。
投稿: さかば(阪井) | 2013年12月16日 (月) 23時34分