[#agile] 「リーン開発の現場」を読んで その1 - 引き取り的な仕組み -
今年度上半期のイチオシの本は、スクラムの歴史を含めてわかり易く解説した「アジャイル開発とスクラム」と現場のイメージをわかせてくれた「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK」でした。下半期のイチオシの本はその2冊の特徴を併せ持つ「 リーン開発の現場」でしょう。
リーンのムダのなさ
リーンとは「ムダのない」という意味です。リーンのルーツであるTPS(トヨタ生産方式)では、当時の大量生産との対比からジャスト・イン・タイムと呼ばれていました。
ジャスト・イン・タイムとは、今風に言うとオンデマンドと呼んでも良いかもしれません。必要なものを必要な分だけ開発し、ムダな在庫を減らす事でムダな工賃や倉庫が不要になります。
(このムダをソフトウェア開発で言うならば、ユーザビリティや性能、技術的な課題を確認せずに横展開してしまって生じる、大量の手戻りをイメージすると良いでしょう)。
TPSでそれを実現しているのは引き取りカンバンです。注文を受けて作られたカンバンを受け取って、その分だけ生産します。しかし、それだと需要に追いつかなくなるので最小在庫数を決めておき、新たな引き取りによってその分だけ作ります。
また、一度に大量にな単位(ロット)ごとに作ると、最大でその単位分の在庫が必要になりますので、作業ごとに同時に作る仕掛りの量(WIP)を決めます。究極は1個流しというやり方で、引き取りごとに1個ずつ作ります。
リーンソフトウェア開発のカンバンボード
リーンソフトウェア開発では、カンバンボードを用いてムダのない開発を行うものです。カンバンボードは仕様やタスクを書いたカードを貼るもので。開発の状況を可視化すると共に作業開始に制約を与えます。
カンバンボード全体は、カードが生産計画に基づく生産ラインである生産指示(仕掛け)カンバンのように動きますが、以下のような点で必要な分だけ作業する引き取りカンバンの様なオンデマンドの特性を持ちます。
- 仕様は順序づけられて流される
- 並列に配置されたバッファに優先順位を付ける(優先順位の低いものは暇な時に作業することで平準化する)
- 同時に作業される量を制限する(WIP制限)
このようにする事で、一度に作りはじめてしまうのではなく、必要なものを優先的に開発し、後回しにした方が良いものは後から開発されるようにします。決定を遅らせる事ができるのです。
「リーン開発の現場」の新しさ
「リーン開発の現場」を読んでいると、このような理論的な背景が具体化されている様子を感じられます。読まれていなければ上記の内容は、すぐにはわからないかもしれません。しかし、200ページもないこの本を読めば、著者らのプロジェクトを追体験することができ、より具体的に知る事ができます。
そんな類を見ない本ですので、下半期で一番におすすめしたいと思っています。
次は「リーン開発の現場」に出てくるプロセスのパターンを説明する予定です。
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