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言葉の定義 - アカデミアとの壁・その1 -

私が最初に研究指導されたのは、言葉の定義でした(ちなみに人格指導の最初は「謙虚になりなはれ」)。言葉の定義は、論文を書く場合だけでなく、より多くの人に技術的な内容を正確に伝える際には大切な事だと思います。

開発現場の人間は、その現場で通じる言葉を話します。しかし、論文などの研究成果は多くの人に理解してもらうものですので、誤解のないように伝えないといけません。誤解がないようにというのは、厳密と言うよりは「ここでは」の意味を定義して、制限して使うということです。

たとえば、「バグ」似た言葉は、欠陥、障害、故障、など色々な意味があり、学会によってもそれぞれの意味が異なる言葉です。プログラムの誤りの数なら英語で言う fault で、正常に動かなかったテストの数なら failure になります。一つのソフトウェアの誤りで、複数のテストが不合格になりますので、同じ数値でも単純に比較できません。

論文ではバグではなく障害と呼ぶ事が多いですが、本文中の障害が fault なのか failure を示すのか明確にしてから議論します。

バグの定義などは専門的ですが、これ以外にも工程や作業の名称、工数を「稼働」と呼んでも伝わらないですし、「1人月」といっても時間数にすると違うほか、見積もりと計画、実作業、で1人月の扱いが異なる事も多いでしょう。

アカデミアでは、一般に使われている定義であるだけなく、議論の前提として使える様に定義します。その際には経験的に示されたものを引用する事で無駄な議論を避けて、いわば定理として用いて、そこから演繹した世界で研究成果を説明します。

難しいのは、その議論を聞く人が「できる人」もいる事です。できる人は、頭の中で知識の構造を常にリファクタリングしています。曖昧な定義のままで説明しても混乱を招くだけで、わかってもらう事はできません。内容の説明にどのような用語が必要で、どのように定義すれば、既存技術との違いを説明できるかが明確になっていないといけません。

このように、自分の言いたい事を伝えるには豊かな表現やイメージではなく、伝えたい事の構造を整理しておかなければ、うまく伝わらない場合があります。言葉の定義は、より多くの人に技術的な情報を正しく伝えたい場合には、意識しておかないといけない事の一つだと思います。

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