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技術を積み上げ可能にして未来を切り開こう!

積み上げ可能な技術

技術と言っても色々な種類があります。基礎技術、実践ノウハウ、ビジョン、方法論、パラダイム、などなどのうち、現場の技術者が勉強会で議論する事が多いのは実践ノウハウにあたるものでしょう。

ワークショップやグループディスカッションに集まった各々の経験を語り合い、色々な考えや感想を聞く事は刺激的で、すぐにでも役立つヒントになります。

とは言うものの、良さそうなアイデアを実践してみてもうまくいかない事もあります。それは、実践ノウハウが積み上げ可能な技術になっていないからです。

積み上げができる技術とは、以下のような技術です。

  • 解決できる問題と効果が示されている
  • なぜ解決できるか説明できる(たまたまでない)
  • 限界が示されている
  • コンテキスト(背景)が明確で再現できる


エンピリカルソフトウェア工学

上に挙げた項目がより具体的に、できれば定量的な情報が示されていれば、どのような技術であるかが明確になるでしょう。このような点が大切なのは、エンピリカルソフトウェア工学が1980年代の反省から生まれた事でもわかります。

ソフトウェア工学が生まれた1980年代は、一種のブームでした。多くの人が様々な提案を行っていた様です。しかし、それらは玉石混合で、良い議論もあれば、言いっぱなしの議論も多くあった様です。

そこで、提案する際はきちんと実証しようという事で生まれたのが、 経験的ソフトウェア工学とも呼ばれるエンピリカルソフトウェア工学です。上に挙げたように適用範囲が明らかな技術は、限定されているかもしれないが役に立つ技術です。

アジャイルを積み上げ可能な技術にしよう

これまで、従来法をベースにしたソフトウェア開発では、産学連携がそれなりに行われていました。シンポジウムなどでは大学関係者だけでなく、企業の管理部門や品質部門の方が参加し、お互いの成果を示し合い交流していました。

ソフトウェア工学の研究では結果の妥当性を示す目的で、統計処理が多く使われます。管理部門や品質部門はソフトウェア開発の統計的なデータを扱う事が多いので、お互いにメリットがあったのでしょう。

しかし、アジャイル開発は日本でようやく2012年頃から本格的な普及期に入ったところです。そして、なにより現場の技術ですので現場の人間でなければ、議論する事が難しいでしょう。

統計的なデータ収集はIPA/SECさんが積極的に行われていますし、アジャイル開発が本格的に普及すれば、従来の枠組みでもある程度は産学連携が行われるかもしれません。

しかし、開発現場の人間が期待するのは、やはり現場での技術を積み上げ可能にすることです。しかし、積み上げの議論を行うにも論文が通らないと議論に参加できないので、現場の人間自身が論文等にまとめる努力が必要になると思います。

現場の論文のヒント

私の失敗談からアジャイル開発の論文作のヒントをまとめておきたいと思います。

ソフトウェア工学国際会議(ICSE)で採録されたの論文の元になった、2004年の川端さん、小林さんとの論文発表をした後の事です。さらに事例を増やし、より良い論文にしようと永和システムマネジメントの木下さんに情報提供をお願いしました。しかし、詳しい情報をいただいたもののうまくいきませんでした。

それは、すでに木下さんのところではバーンダウンチャートやニコニコカレンダーなど多様なプラクティスを導入されていたからです。それまでのXPのサブセットのプラクティスで議論した論文に、フルセット以上のものを加えてはうまく議論をまとめられませんでした。

顔を突き合わせて議論すれば別の論文にできたかモア知れませんが、お互いの所在地の問題もあってうまくいきませんでした。安易にお願いして失敗してしまい、今も申し訳ないと思っています。

このように、無理に完成度を高めようとするとプロジェクトの多様性に混乱します。細かな議論ができる範囲で情報を収集して、量ではなく質で勝負する方が良いと思います。

また、論文誌(ジャーナル)は完成度が求められるので、いきなり狙うのは難しいです。まずは、シンポジウムや国際会議がよいと思います。これらは、完成度にある程度の難があっても、聞きたい発表は採録されるからです。

上に挙げた項目が明確で、新しい方向性を示ている、評価方法に工夫がある、など査読者が聞いてみたいと思う内容の提供を心がけるとよいと思います。

最後に論文で最も落ち易いのは、論旨のわからないものです。論文の書き方(その1その2その3)で書いた様に、論文の構造を意識して書く事です。特に「主張したい点を裏返して問題設定にする」というのは、シンプルな構造を実現するポイントです。

まとめ

ようやく日本でも、アジャイル開発が普及しようとしています。しかし、技術の積み上げがなければ、一通りの市場を獲得した時点で普及が終わってしまいます。常に新しいマーケットを開拓していくには、技術を積み上げていく必要があります。

今回は論文の視点でまとめましたが、これ以外にもIPA/SECなどへの協力や出版、あるいは大学との共同研究、人的交流なども考えられます。私たちが技術を積み上げる事で、新しい未来を切り開く事ができると思います。

最後に、スタートレック・ヴォイジャーのトレス中尉が言った、私の大好きな言葉を書いておきます。

「栄光を築くのは戦士かもしれないけど、社会を築くのはエンジニアよ」

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