工夫が凝らされたSCRUM BOOT CAMP THE BOOKの構成
SCRUM BOOT CAMP THE BOOK は読み易くて内容が濃い本です。マンガによるストーリーを活用した従来の技術書にはない構成によって実現できたのだと思います。
従来の技術書
技術書にも色々ありますが、記事や論文を束ねた書籍を除くと、用語の説明方法で大きく3種類に分けられると思います。
入門書
本を初めから読むと理解できる様に、順序だてて説明されています。説明されてない用語が突然出てこない様に工夫されていますが、概要と詳細などで同じ用語がなんども説明される事があります。説明順序が工夫されているだけなので必ずしも内容が薄い訳ではなく、「〔改訂〕Trac入門
」のように案外濃い内容が載っているものもあります。
中級書
ある程度詳しい説明をする場合、あらかじめ用語を説明しておく方が説明が容易になります。そこで、導入部でなるべく多くの用語を説明しておきます。それでも不十分な場合は脚注で別のページへのリンクを示したり、説明を補うなどします。「Redmineによるタスクマネジメント実践技法
」は「プロになるためのWeb技術入門」を参考に中級書を意識して書いています。
上級書
さらに色々な事を説明したい場合は、同じ脚注を何度も書けないので、用語集としてまとめます。このようにしておくと、用語の説明に左右されず全体を構成できるほか、特定の場所だけを読み直した際にもあちこち読まなくても、読みたいところと必要に応じて用語集を見れば良いようになります。
「チケット駆動開発
」は前作でかけなかった内容をより多く書く目的で、20世紀に多かったこのような専門書を意識して書いています(なので図が少ない、読みにくい、色々書きすぎ、などと言われても困っていたりします)。
このほかいずれの場合でも、全体の流れを乱してしまうような内容を書きたい場合は、コラム(囲み記事)として分離する、逆引きができる様に索引を付ける、といった工夫をします。
「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK」はマンガに気を取られて入門書だと思ってしまいがちですが、初めに吉羽さんの解説がある事から、中級書の構成になっていますし、読み応えのあるコラムや一覧し易い索引があり、なかなか良くできています。
マンガによるストーリー
「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK」は全体のストーリーをマンガで構成し、関連する説明を比較的多めの文章で補っています。一見、文章がメインでマンガを挿絵の代わりだと思ってしまいがちですが、中級書の脚注が複数ページになったと考える事もできます。そう考えるとやはり中級書と言えるでしょう。
ストーリーで技術を説明するとイメージがわかり易くなる事から、これまでも多くの本で採用されています。たとえば「アジャイルと規律
」では TSPとXPの比較に利用されていますが、部分的なものです。また「バグがないプログラムのつくり方
」は全体をストーリーで構成していますが、文章のみで構成している入門書です。
「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK」はマンガでストーリーを示しているので、解説の文章との対比が明確になっています。この効果で、ストーリーに引っ張られずに、実践的な情報をふんだんに取り入れても違和感を感じない構成になっています。
まとめ
技術書以外の既存の本で考えると、「クッキングパパ」や「酒のほそ道
」のコミックなど料理マンガのレシピを増やしたイメージとも考えられますし、かつての「科学と学習」や小学館の学習雑誌の付録似ついてきたマンガをベースにした解説本のようにも感じます。
これらの本は内容が濃いものの、楽しく読めるという特徴があります。クッキングパパではレシピの最後に「おいしいぞ!」と語りかけられると、ついつい作ってみようかという気持ちになります。マンガは雰囲気が伝え易く、親しみ易いので、より多くの情報を伝える事ができるのでしょうね。
アジャイル開発もいよいよ本格的な普及期に入ったと思います。これからは原則に則った方法だけでなく、より現実的で実践的な情報が必要とされるでしょう。
この本の様に様々な工夫が凝らされた本が増え、ソフトウェア業界が健全に発展する事を期待しています。
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