日本文化に仕立て直した実践書 - SCRUM BOOT CAMP THE BOOK の意義 -
「 SCRUM BOOT CAMP THE BOOK」をじっくりと読んでいます。まだ1/3ほどしか読めていませんが、読み終わると今の思いだけでなく、別の事が書きたくなって収拾がつかないと思うので、一旦、感想を書いておきます。
結論から書くと、この本は欧米文化をベースに作られたスクラムを、日本人に合わせて見事に仕立て直しています。どのように実践すべきか、スクラムに不足しているところを補いながら、日本人が実践できる様に説明している良い本だと思います。
欧米の文化を考える
以前「スクラムを味方につけろ! - SEA関西プロセス分科会 -」と言う記事で「スクラムは敵か味方か」という不安を書いていましたが、「アジャイル開発とスクラム」とこの本を読んでいて、その背景にあるのはキリスト教的な欧米文化にあると思いました。もちろん、単純に述べられるものではないと思いますが、聖書から透けて見えるのは以下のような内容です。
契約文化
「新約聖書」と言いますが、新約の「約」は契約の「約」で、翻訳の「訳」ではありません。天国に行くには契約を守れば十分です。海外では仕事を頼んでも「その仕事は私の仕事ではありません」と断られてしまうことがあるそうですが、契約がすべての基本であるという文化的背景があると思います。
聖書の「善いサマリア人」(ルカ10・25-37)では博愛が説かれているのですが、それは「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」(ルカ6・31、日本聖書協会 新共同訳)と考えるからで、気を利かせたり会社のためという感覚ではないと思われます。
このような契約文化があるので、価値観や考え方だけでなく「仕組み」としてプロセスを作り上げる必要があると思います。
能力の発揮が義務
タレントの語源になったと言われる「『タラントン』のたとえ 」(マタイ25・14-30)というものがあり、自分の能力を発揮しないといけません。
日本では指示されるとか、そういう雰囲気でなないと、自ら進んでコミットしない人が少なからずいます。しかし、欧米では信仰上、能力を発揮しないと天国に行けないので、進んでコミットメントするのが当然と考えられます(もちろん、例外もおられるでしょう)。
サーバントリーダーシップ
以前、アジャイル開発への壁は価値観の壁という記事に書いた様に上に立つ人は、仕える者のようになりなさい。」(ルカ22・26、日本聖書協会 新共同訳)という聖書の言葉があり、上の人間がメンバーが能力を発揮できる様に考える事が当然とされています。
日本では偉くなると人を使うものだと考えて、上司が細々と指示を出して、下の人がそれに従うイメージがあります。欧米でウォーターフォールがうまくいかず、日本ではある程度うまくいったのは、このような背景があるのかもしれません。
CMMをふりかえって
CMMも日本を含めて世界的に行われていた管理が先にあり、クロスビーの研究をベースに形式化されたと考えられます。CMMを導入した企業によっては、日本的な管理をベースに、改善がうまくいっていたのに破壊されたと言う意見を聞いた事があります。
標準になるとその方が優れている様に考えてしまいがちです。しかし、それが自分たちにとって必要なものであるか、そのまま受け入れて良いものか、良く見極める必要があると思います。
「アジャイル開発とスクラム」では、オリジナルスクラムでの考え方がアジャイルスクラムでどのような仕組みにマッピングされているかを解説されていました。しかし、それはあくまでも仕組みです。そのような仕組みで前提にしている価値観についてはあまり書かれていませんでした。
スクラムを日本人向けに仕立て直す
「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK」はアジャイルスクラムの前提である欧米文化を解説するのではなく、日本人がスクラムを実践するならどうすれば良いかと言う事が書かれています。
そこで、見え隠れするのは日本的なチームの一体感です。和辻哲郎氏の「自他不二」と言う言葉に示される様に、日本人は「場」において一体の仲間だと感じます。単なる互恵関係ではなく、互いを気遣い、助け合える関係です。
この本は、スクラムの仕組みを利用しつつ、このような日本文化を活かして、チームにどのように文化を構築するかが書かれていると思います。
それは、遠藤周作が当時のキリスト教に居心地の悪さを感じ、著作を通して日本人向けのキリスト教観を構築した様子に似ています。その著作は日本だけでなく、世界でも読まれています。特に「沈黙」はセンセーショナルで、日本だけでなく様々な国の言葉に翻訳されました。
「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK」によって日本人にふさわしい形でスクラムが広がり、その文化がふたたび世界に広がる。そんな夢を抱きつつ、この本を読み進めたいと思います。
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