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さかば流・論文作法 その1 - 論文の構成 -

先日は技術発表のポイントを書きましたが、論文の書き方についても触れておきましょう。

論文の書き方は分野によって色々違うと思います。ここでは、ソフトウェア工学の論文を意識した論文の書き方を説明します。今回は論文の構成です。

先日、こんなつぶやきをしました。

私が大学院で5年かかった内容を140文字にまとめるとこうなりますが、あまりにもシンプルなのでもう少し説明する事にします。すごい論文には、まだまだ先があると思いますが、伝えたい事が伝わる様になると思います。

論文の構成は「まえがき・あとがき」「はじめに・おわりに」などのようにバリエーションがあります。基本は、投稿先の基準に合わせて、書式、章の構成、文献と引用の方法をそろえます。

一例として、手法の提案での論文の構成例を示します。

タイトル

査読に大きく影響を与えます。タイトルと概要で査読結果の半分近くが決まります。査読の際はタイトル、概要、はじめに、結果、その他の内容と読み進めると思いますが、イメージを膨らませながら読まれるので、最初のとっかかりが重要です。一通り書き終わったら、タイトルと概要だけは誰か(できれば論文を書慣れた人)に見てもらった方が良いでしょう。

書き終えるまでには、何度か書き直す事になると思います。ひとまず、「提案手法名:xxを目的としたyyの提案」などとして、書き終わってから、よりアピールできる名称を考えると良いと思います。

概要

曖昧な内容ではなく具体的な内容を書いて、読者を読む気にさせます。色々なパターンがありますが、さかば流では結果を書いてから内容を説明します。「本稿ではxxするyyを提案する。提案する方法を用いると〇〇が△△になる。従来の▼▼手法では△△できなかったが、提案手法を用いた結果〇〇の□□がZ%改善し、△△である事が確認された。」といった感じです。

ポイントは数値あるいは具体的な内容で示す事です。定性的な情報しかなくてもモデル化などによって、定量的な結果やより具体的な結果を示します。

はじめに

提案する事の問題設定と用語の定義を書きます。他の分野、たとえばアルゴリズムなどの分野では、問題や用語が明確になっていて引用する事で問題設定できる場合があるかも知れません。

しかし、ソフトウェア工学では生産性とか品質といった大枠の課題はあっても、その手法が解決する具体的な問題、たとえば「レビュー時の漏れをなくす」といった限定された問題がなぜ必要かはあまり示されていません。

詳細で具体的な問題設定を通じて、提案手法で解決する問題が一般的に重要な問題である事を示します。そして、提案する手法の価値を高めます。

その背景には、議論する範囲を限定して議論し易くすること、また、そんな大した事が一度にできるわけない、という暗黙の前提があります。もちろん、すごい研究は存在しますが、その正当性を示すには、抜けのない、つまり、議論の余地のない評価方法や結果の示し方が必要になります。

問題を設定する犀は過去の文献を引用して、徐々に外堀を埋めていきます。社会的な要求に近い大きな問題から、徐々に小さな問題に迫っていき、類似の研究の成果と問題点を説明します。この問題点は提案する手法で解決できた事でないといけません。

用語の定義も文献を引用しながら行います。いかにも定義という表現でもかまいませんが、問題設定の中で関連研究の説明とすれば読み易いでしょう。少なくともタイトルに含まれる用語はすべて説明しないといけません。

関連研究

「はじめに」でも関連研究を引用しますが、それは用語の説明と問題設定のための物です。提案手法と直接関わるものを章にします。章のタイトルは、より具体的な関連研究の名前を含めたり総称でもかまいません。

この章では、提案手法の理論的な裏付けや新規性につながる研究や技術を説明します。必要に応じて、具体的な内容に踏み込んで有効性や限界を説明します。

ページ数の少ない論文では省略する場合があります。その場合は、「はじめに」や提案手法のところで引用すべき関連研究を示します。

提案手法

章の名前は具体的な提案手法の名前を書きます。

すでに説明に必要な用語は説明されているはずですので、それらを使って提案手法の詳細を説明します。すでに引用された文献であっても重要な物は再度引用します。

技術を公開するのですから、その手法を実施できる様に前提や制約なども含めて具体的に書きます。

評価(実験)方法

追試ができるならより提案手法の結果の信憑性が増すでしょう。興味を持った人が再現できる様に具体的に書きましょう。定性的なデータよりも定量的なデータの方が客観的な議論ができます。

もし、可能なら検定など統計的な手法で評価しましょう。不可能なら結果の分類、モデル化、などを行います。

結果と考察

評価の結果を示して、提案手法がどの程度優れているかを示します。また、結果から論理的に言える事を説明して、提案手法の有効性や可能性、課題を述べます。

注意点としては、事実と考えを分けることです。ページ数余裕のある場合は、結果と考察にわけます。それができない場合は、少なくとも段落単位で事実と考えを分けます。

おわりに

概要と同様の内容をまず書いて、考察の結果や、課題、今後の可能性を欠きます。

論文には提案手法の新規性、有効性、信憑性に関わる事以外の思いを書く場所はほとんどありません。もし、キャッチーな言葉をかいたり、大風呂敷を広げたいなら、はじめにの最初か、終わりにの最後です。提案手法から離れすぎない範囲でイメージできる内容を書きましょう(研究会などでは、具体的にどう考えているかを質問される事がありますので、ほどほどに)。

以上、論文の構成を説明しました。これ以外にも考察で関連文献を引用して新規性を議論するというパターンなどもありますが、上のような構成でまずは書いてみてはいかがでしょう。

次回は論文を書く上での注意点を書く予定です。

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