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アジャイル開発への壁は価値観の壁

海外ではウォーターフォール開発に失敗してアジャイル開発が普通なのに、日本では問題を抱えながらもウォーターフォール開発がそれなりに成功してアジャイル開発が普及しないのはなぜか?その理由を欧米の価値観から説明し、その対策を考えてみたいと思います。

1.サーバント・リーダーシップ

上記の問いの答えは価値観にあると思っています。かわぐちやすのぶ(@kawaguti)さんの最終回 5分で分かる、「スクラム」の基本まとめの最後に、“「サーバント・リーダーシップ」へのマインドシフトが必要”と書かれていますが、これこそがアジャイル開発の壁だと思っています。

実は「サーバント・リーダーシップ」はアジャイル開発に限らず、欧米の価値観では当たり前の事なのです。以前、紹介したいわゆるデブサミ本「100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著 君のために選んだ1冊」に、CMMで有名なハンフリー氏の「TSPガイドブック:リーダー編」にある関連部分を引用していますので、その部分を転載します。

この本にあるように、メンバーの能力が発揮できる「自律的なチーム」を構築すべく、「リーダーシップ」を発揮して「その最大限の能力を最大限発揮できるようメンバーを動機付け、コーチし、後押しする」ことが重要だったのです。そのためには「フィードバックとコミュニケーション」の提供や「動的な負荷調整」も必要です。また「管理することとリードすることは違います」し、「人はリードされたいけれども管理されたくはない」ので、「リーダーは部下を動機付け」るなど「下からリード」して「ゴールを達成」するべきだったのです。

この本はアジャイル開発についてCMMIに記述される前のチームのプロセスについて書かれた本です。そこでは厳密ではないですが、ウォーターフォール的な開発が基本です。にも拘らず、自律的なチームを下からリードすることが勧められているのです。これには私も驚きました。チームのあり方がこのように語られるのは、メンバーやリーダーの価値観が日本と違うからだと思っています。

2.欧米の価値観

欧米というと、昔からの私のイメージは「個人主義」「合理主義」でした。しかし、これは表面的な捉え方だと思います。確かに、民主主義の流れで確立された個人の権利は個人主義につながりますし、自由主義経済の基本にあるのは合理主義的な考え方でしょう。しかし、そういう割り切った価値観以外に、キリスト教的な価値観があると思います。それは以下のようなものです。

自分の能力を活かす
聖書にはタラントンの教え(リンク先は日本聖書協会)というのがあって、預けられた1タラントンのお金をなくさないように埋めておいた人が、怠け者として怒られるお話です。タラントンとは昔のお金の単位ですが、タレントの語源だそうです。キリスト教圏の人は「神様に与えられた能力を活かしなさい。」と教えられて育つのです。これでは、コマンドコントロールに向いたウォーターフォールがうまく行くはずがありません。

人に仕える
また、最後の晩餐のときには、使徒たちのうち誰が偉いかを話していると、キリストに「上に立つ人は、仕える者のようになりなさい。」(ルカ22・26、日本聖書協会 新共同訳)と言われるお話があり、200年前から「サーバント・リーダーシップ」が語り継がれているのです。

日本人はどちらかというと個人の能力を活かすというよりは、「一人前」と言う言葉に表されるように人並みになる事が第一目標。そして、人の上に立って、地位と名誉を得る。という一般的な成功パターンをイメージしがちです。そこには、自制的で調和のとれた立派な人によって構成されたピラミッド型の組織のイメージがあります。

しかし、上のような欧米の価値観からは、個性的で人の役に立ち、人の能力を最大限に生かすリーダー像がイメージされます。そこで、欧米の有名人を思い浮かべると、そのそばには必ずと言ってよいほど名補佐役やエキスパートがいました。互いに能力を認め合い活かし合って偉大な結果を生むことが、多いのでしょうね。

3.壁を越えるには

さて、このように説明すると宗教に頼らないといけないのかと思われるかもしれませんが、すでに大人の私たちが改宗しても、子供の頃から欧米の価値観の中で育った人になれる訳ではありません。何らかの戦略を理論として持たなければなりません。私の考えた2つの戦略を紹介します。

勝てる土俵で勝つ
主にカトリック系の幼稚園におおい教育法で「モンテッソーリ教育」(リンクs会はWikipedia)があります。子供が何かに集中して獲得しようとしているときを「敏感期」と呼んで、そのときを利用して教育します。私はこれが、大人でもあると信じています。

誰でも興味を持った瞬間を活かして勉強すればすごく上達しないでしょうか。仕事をする上でも、「おっ!」と思ったときはすかさず確認して、ある程度納得するまで調べます。そうして得意な分野を増やしていくのです。また、同じ工数で従来のやり方と工夫したやり方があるなら、後から楽になりそうな工夫をしてノウハウとその後の効率を手に入れます。

このように自分の能力を育て、活かし、そして得意なところや勝てるところで勝負します。そうすればさらに能力を高める事ができるでしょう。

背中を押してくれるお父さんになる
「人に仕える」と言われてもよくわかりません。そこで、血の気が多く、技術指向だった頃に私が求めていたリーダーをイメージすると以下のようになります。

・より良い方法を提案すると、それを受け入れてくる
・受け入れられない場合は、説明してくれる
・権限を委譲して色々やらせてくれるが、調整したり責任を取ってくれる

つまり、「俺が見てるからやってみろ」と背中を押してくれるお父さんになるのです。若いときは「謝るのも仕事なのに」と愚痴っていても、上司になると何もせず謝る事を避ける人がいます。この戦略はその逆で、積極的に謝る覚悟をしつつ、メンバーの能力を活かして、それをさけるのです。

4.おわりに

価値観を変えるというのは難しい事で、同じ価値観をチームで共有するというのは難しい事です。アジャイル侍にあるように、みんながその方法を気に入るわけじゃないのかも知れません。しかし、価値観に対する議論をせずに、やることだけを共通化してもアジャイル開発の効果を得る事はできないと思います。

どのようなチームにするか、その合意形成が重要なのだと思います。

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