リーンを考える - 無駄と必要なアソビ -
leanとは贅肉がなく引き締まった様子を表す言葉で、リーン生産方式などでは「無駄を排除する」ことから名付けられています。「無駄を排除する」という事だけをとらえると、スターバックスの改善のように作業をストップウォッチで計測して、配置と作業の最適化によって無駄を排除するような事をイメージするのですが、ビジネスを考えると、アソビが必要だと思っています。
決定をできるだけ遅らせる
私がリーンを初めて知ったのは「リーンソフトウェア開発」という本でした。この本には、海兵隊を例に自律的な組織が説明されていたほか、「決定をできるだけ遅らせる」というプラクティスが衝撃的でした。
「決定をできるだけ遅らせる」というのは、例えば車のドアのところのデザインがかわる可能性がある場合、ドア部分の金型を削ってしまわずに少し残しておく様な対処で、後から変更が生じた際に調整できるように決定を遅らせるというプラクティスです。すべての事を決定しておかずに余裕を持たす事で、選択肢を残しておくのです。
アソビ
先日、koboを買いました。iPhoneのような箱という評価もあるようですが、こんなに開けにくい箱は初めてでした。茶筒じゃないのだから、それなりに隙間を持たせてほしいと思いました。設計では、このような隙間を「アソビ」と呼びますが、きちんと考えて隙間を作るのに「アソビ」というのは面白い表現ですね。
理論の世界と現実の世界の違いは、このアソビだと思います。計算上はうまく行くはずなのに、現実世界になるとうまく行かないことがあります。たとえば、1人月の仕事だから1ヶ月だけ誰かをつれてきてなどと考えても、前の仕事からの切り替えには、新しい仕事の準備だけでなく、前の仕事をきちんと切り上げて、打ち上げなどがないと気持ちの切り替えもうまく行かないでしょう。また、常日頃から与えられた仕事の勉強だけでなく関連知識も習得する努力をしておかないと、前の仕事のスキルを次の仕事に活かす事も難しいでしょう。
ラーニングオンデマンド
ラーニングオンデマンドは、以前も書きましたが簡単に言うと、情報が増えてくるとあらかじめ勉強しておくのは困難なので、必要になったときに勉強するという事です。いわば、ポーリングをやめてイベントドリブンにするのですから、この方法も無駄の排除には効果的です。
しかし、実際にやってみると、デマンドをどのように捉えるかによって、学習範囲と効果がかわります。もし、仕事だけをきっかけにしたのなら、自分がどんどん使い物にならなくなっていく事を実感されるでしょう。逆に、目にしたものすべてをきっかけにしたのなら、膨大な情報に振り回される事になります。前回のアジャイルの壁で書いたように、興味を持ったときは学習効果が高いので、仕事+興味を持ったものをきっかけにするのが良いと思います。
リーンスタートアップ
同じ「リーン」の名前のついたものに「リーンスタートアップ」があります。後から名付けられたようですが、これも同じく無駄のないスタートアップ(起業)の方法です。無駄のない仕組みとしては、MVPと呼ばれるスモールスタートの考え方と、ピボットと呼ばれる方針転換がポイントでしょう。音楽業界を見ていると、このピボットの方法が見えてくるのではないかと思っています。
かつて倉貫さんが大阪に来られたことがありました。このとき、本を読んでくる事が宿題だったのですが、力つきたのでその代わりに当時話題になりつつあったももいろクローバZ(ももクロZ)の特番を見ました。私は高音の女性の声が苦手なのですが、この時は我慢して見ました。
そこでわかったのは、ももクロZは最初から今の方向性ではなく、徐々に方向転換した上で、メンバーの脱退を機に方針変換したという事でした。元々は少し元気なアイドルだったのが、各人に色がつき、ミュージカルっぽいものからコント仕立てのもの、そして今のようなハチャメチャに元気いっぱいでアニメっぽいイメージのものとなっていったようです。
後で調べると、その背景にはAKBの会いにいけるアイドルとは反対に、会いにきてくれるアイドルという軸足があったようです。その中でピボットを繰り返し、最終的に最も大人っぽかったメンバー脱退でよりアニメっぽい方向に舵を切ったようです。このようにピボットができたのは、毎回必要最低限のぎりぎりで曲を作ったのではなく、アルバムの中にアソビがあって、顧客の反応を見ていたからだと思います。
必要なアソビ
さて、どこまでが無駄でどこからが必要なアソビなのでしょう。ソフトウェアを作るのが人間である限り、それは幅があると思います。組織的に考えるのであれば、ある程度の長期的な視点で進めると共に、ある程度はエンジニアの自由を認める必要があるでしょう。
エンジニア個人を見ると、勉強会に出るなどで刺激を受けることが効果的です。実は勉強会は多くの刺激が受けられるほか、経験者からのサマリーを聞く機会でもあります。ややもすると、仕事には無駄と思われがちな勉強会ですが、会社に閉じこもって調べるよりも結果を聞いた方が早い事も多く、特に懇親会でお話ができたなら、仕事に直接関係する相談ができる事もあります。
知識というのは単独に存在しません。外部との関連があり、周辺の知識とともに存在します。ピンポイントで業務上の知識を持っているだけでは応用が利きませんし、経験だけでも役に立ちません。経験をきちんと整理できて応用が利く、そういう時間が取れる適度なアソビが「必要なアソビ」だと思います。
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