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OJTは人体実験 - 池上先生@SS2008 -

SS2008のキーノートスピーチの二人目は獨協医科大学の池上敬一先生でした。池上先生は越谷病院の救命救急センターに勤務されています。

講演は「『21世紀の医療者養成』-In-Situ インストラクションの重要性-」と題して、池上先生が取り組んでおられるシミュレーションを活用した救急医療専門家の養成について、お話しされました。

まず初めにボンバルディア機の胴体着陸について、その驚きを語られました。誰一人としてけが人を出さなかった見事な胴体着陸に、パイロットはいつもの練習通りにできた、と答えたそうです。胴体着陸という滅多に経験できない事象に対して、航空業界はシミュレータで十分な経験を積ませていたのです。

救急医療の世界では、もともとOJT(On the Job Training)が中心で、「See One, Do One, Teach One」と言って、先輩を見たら、次はやってみるという患者を練習台にする方法がとられていました。職人的な「背中が教材」方式で、ランダムな指導と主観的評価に基づく教育が行われてきました。

しかし、人は誰でも間違いを犯すので、医療過誤による死亡率は交通事故や乳がんより高く、治療によって命が危うくなるという人体実験のような状況だったようです。このような状況では、医師の不安が強すぎて、技術が身につきません。

この反省から、近年はリアルなシミュレータを用いたトレーニングが行われているそうです。教育も体系化され、標準的なタスク遂行能力をもつインストラクターによって、用意された教材を用いて、計画的で偏りのない指導が行われているそうです。

そこでは、偶発的な学習でなく、意図的な学習に焦点をあてたインストラクションが行われます。まず、まるでドラマのERのようなムービーを用いるなど色々な感覚を利用して、ゴールと講義内容を示すなど、事前学習をします。そののちに、何百万円もする人体シミュレータを用いたOff-JT(Off the Job Training)が行われます。

シミュレータでは、実際の現場ではなかなか体験できない失敗を計画的に体験することができます。現場での失敗は大きな問題になりますが、シミュレーションで失敗することが良い学びになります。

そして、OJTでは、褒めることにより成長させるよう努力されます。そして、振り返りをとおしてさらなる発展学習につなげられます(これをどこかのセミナー屋さんでするのではなく、所属する病院、すなわち現場でするので、タイトルに「In-Situ インストラクション」と入っています)。

高価なシミュレータですが、医療過誤の訴訟に比べれば安いもので、失敗することが学びになり、ほかのものに代えがたい学習ができるというお話でした。

このお話はソフトウェア技術者である私にとって、かなりショッキングでした。教育といえば本を読むことやセミナーに参加することで、トレーニングはOJT中心、ということが当たり前だと思っていたからです。

医療過誤と同じように、ソフトウェア開発のトラブルも小さな会社だと潰れてしまうような額になります。それなのに、未だにOJT中心の教育が行われています。確かに近年のプロセス改善ブームによって問題プロジェクトは減ったものの、そこに働く人は心の病を多く抱えています(リンク先はITpro)。最近のWebアンケートでは、「3割が“心の病”、5割が予備軍」というものまであるようです(ITproメール 2008.07.28)。

OJTを人体実験と考えたとき、工数増大という観点から、最初はプロジェクトが人体だと思いました。しかし、心の被害を考えると、プロジェクトのメンバーが人体だったのかもしれません。航空機や救急医療のように、プロジェクトの運営のトレーニングを、体系立てて行わなければならないのかもしれません。

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