このブログでも外典福音書のテレビ番組を紹介しましたし、ダ・ヴィンチ・コードもナグ・ハマディ文書を用いて話を展開しています。これらが外典であるのは間違いないところですが、旧約聖書の続編も外典と呼ばれることがあります。
日本聖書協会の「SOWER No.29」の特集は「『ユダの福音書』は聖書なのか? 正典のなりたちと外典・偽典」です。この中で正典と外典が説明されていました。
この記事によると、「外典」とは「正典」に含まれないと言う意味です。しかし、外典と呼ばれるものは、旧約聖書と新約聖書で性格が大きく異なります。
旧約聖書
ユダヤ教の正典は90年頃のヤムニア会議で今の旧約聖書三十九書と定められました。これには続編が含まれておらず、旧約外典というと続編のことをさします。旧約聖書続編十三書は、七十人訳という古代ギリシャ語の旧約聖書に含まれていた文書です(Good News Collectionによるとバビロンの捕囚以降に地中海周辺に移り住んだユダヤ人のために作られたようです)。
キリスト教では、教派において続編の扱いが異なります。新約聖書に引用されている旧約聖書の聖句が七十人訳聖書のものだったこと、ヘブライ語からの翻訳過程にも霊感が働いていたと語り継がれていたことから、続編も正典性を認める傾向があったそうです。
宗教改革後、この続編の扱いが教派によって異なるようになります。Wikipediaによれば、
マルティン・ルターがヘブライ語本文から聖書を訳した際に、ヤムニア会議の定めたテキストと、カトリックが使っていたラテン語聖書との異同に気付いた。ルターはこれを外典と位置付けた。
とされています。プロテスタントでは「正典と同等ではないが、読めば有益な書」「読むことは推奨されるが、教義の基礎としてはならない書」とされ、続編は「旧約外典」とされています。
一方、カトリックでは、16世紀の宗教改革以降に続編中の十書を「第2正典」とし、東方正教会もその一部を正典としています。なお、聖公会はプロテスタントに分類されますが、続編十三書すべてを礼拝で用います。
このほかにも七十人訳に含まれなかった「エノク書」「ヨベル書」「アダムとエバの生涯」などの古代ユダヤ文献があります。これらは、「旧約偽書」と呼ぶそうです。
新約聖書
新約聖書は2世紀中盤のマルキオンという人が新約関係の文書をまとめた「マルキオン聖書」(後に異端とされる)から、新約正典制定に向かうようになったようです。その後、「ムラトリ正典目録」やオリゲネスによる一覧などが正典の原型になり、4世紀後半のアタナシオスによる「第三九復活祭書簡」以降に新約二十七書が正典と認められるようになりました。
「ユダの福音書」「トマスによる福音書」「フィリポの福音書」「マリアの福音書」などは新約外典に分類されます。この外典という言葉は「隠されたもの(ギリシャ語のアポクリファ)」にあてはめられた訳語です。旧約外典の外典もアポクリファの訳語です。しかし、旧約外典が正典視されてきたのに対し、新約外典は排除された文書です。
後に異端とされる集団において、このアポクリファという言葉は「資格のある者だけに読むことが許された秘義の書」という意味で用いられたようです。それが後にキリスト教の「正統」が確立していく過程で、「異端の書」「偽書」という否定的な意味に転化したそうです。
これらの新約外典はグノーシス主義の書物です。グノーシスとは「認識」を意味するギリシャ語です。SOWER No.29 p.6には、以下のように書かれています。
天上での救いに至る奥義を「知る」ということで、その奥義を天の至高神のもとから地上にもたらしたのがキリストであるとされます。その際、天地創造の神は下級の神とされ、その神によって造られた人間は肉体に閉じ込められていますが、至高神の痕跡を持っているがゆえに至高神の使いがもたらす「認識」によって救われるとされます。
つまり、唯一の神を否定し、肉体を悪としています。グノーシス主義と関係するものとしてはアウグスチヌスの時代にはマニ教が普及していました。肉体を悪とするために、厳格な教えに結びつく反面、肉体が悪なら汚さないといけないとして享楽的な行動に結びついていたようです。
このほかにも、1世紀末から2世紀中葉に成立されたという「クレメンスの手紙」「イグナティウスの手紙」「ディダケー」などの「使徒教父公文書」があります。これらは、正典の外にはありますが、異端書ではなく排除されていません。Wikipediaによれば、
内容に問題はなく使徒の著作でないことのみが問題とされた使徒の弟子(「使徒教父」とよばれる。)による文書
だそうです。
SOWERは日本聖書協会のWebページでPDFが公開されています。今回、引用させていただいたNo.29もいずれ公開されると思いますので、ぜひお読みください。
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