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2008/07/27

ニーチェに現代人の苦悩を見る - 「キリスト教は邪教です!」の感想 -

ニーチェ(リンク先はWikipedia)の「アンチクリスト」の現代語訳「キリスト教は邪教です!」を読みました。ニーチェと聞くと凄く難しいような気がしますが、この本は訳が読みやすくエッセイのように読むことができます。刺激的なタイトルと文体に興味を持って買ってしまいました。

この本を読む際には、時代背景を考慮すると良いと思います。フランス革命から100年がたち、フランスでは厳格な政教分離が確立していました。一方、ニーチェの生まれたプロイセン王国の国家宗教はキリスト教(ルター派)でした。このため、周辺国との戦争やカトリック教会への抑圧政策が行われていました。

当時はエキュメリズム(リンク先はWikipedia)といった考えもなく、宗教・教派間で対立していた時代です。また、非ユークリッド幾何学(リンク先はWikipedia)がようやく生まれた時代でした。

そんな時代のニーチェは、宗教、特にキリスト教に頼らずに生きていくことを勧めています。いわく、同情の宗教であり生き残れないはずの低レベルの人間を世の中にあふれさす。イエスの教えをゆがめ、うそで塗り固めた。敵に屈服する方が一番良い選択だと考えるようになったときに生まれた宗教。平等主義は悪魔の思想。科学と対立するので戦争を起こす。などなど、言いたい放題です(書ききれません)。

これらの思想は、ニーチェの「権力への意志」や実存主義につながる利己主義の肯定、向上心といった言葉で表せると思います。しかし、「坊主憎けりゃ袈裟までも」的な語り口は、それ以上の憎しみを感じさせます。

子供のころに牧師であった父を失った悲しみなのか、教会への失望なのか、持論へのこだわりなのか、尋常ではない必死さすら感じました。

実は、この作品を描いたあと、ニーチェはほどなく発狂します。その原因は、梅毒、脳腫瘍、狂気の哲学によってもたらされた精神的失調など、諸説あるようですが、私はその書きっぷりにニーチェの苦悩を感じてしまいました。

ニーチェは科学は正しいと思っているようです。しかし、答えは一つではありません。人はついつい科学的に証明されたものが正しく、唯一の答えだと思いがちですが、そんなことはありません。統計処理で判定したなら、一定の危険率(はずれの確立)を含みますし、ユークリッド幾何学は一つの答えですが、非ユークリッド幾何学という別の答えも存在します。ニーチェの「権力への意志」が答えだとしても真理ということはなく、唯一の答えではないと思うのです。

この本の巻頭の「訳者から」には、多くの戦争に関わった米国のことが、この本によって腑に落ちるだろうとされています。確かにそんな面もあるかと思いますが、原理主義的な宗教はキリスト教に限らず、危険なものではないでしょうか。

キリスト教には色々な教派、グループがあり、無教会主義などというものまで存在します。教会も持たない人たちまでが、戦争を求めると言うのでしょうか。カトリックや他の教派にも宗教的包括主義をとるものがあるのに、訳者の言葉もニーチェと同じく一面的だと思いました。

ニーチェの思想が社会を変えたことは間違いないと思います。間接・直接的にキリスト教と政治の癒着が少なくなり、個人の自由が尊重されるようになったのでしょう。実存主義の先駆者として、その後の哲学に大きな影響を与え、カトリックのエキュメニズムを宣言した第2バチカン公会議にも間接的に影響を与えたかもしれません。

しかし、ニーチェの考え方は厳しすぎます。(時代背景から必要だったのでしょうけど)神を否定し、聖書学によらないパウロ批判を行い、ルターまで否定しています。ニーチェの視点で向上心を持たないものをすべて敵視し否定する態度に、現代人の苦悩に通じるものを感じました。

現代社会は常に拡大成長が求められ、会社でも出世を目指すことが前提で仕組みが作られています。つねに頑張れ、頑張れ、負け犬になるな、そんな厳しさをこの本に感じました。人間は誰もが失敗を犯します。失敗したときは負けを認め、心の平安を求めたいというのが人間のありのままの姿ではないでしょうか?

人生の価値は一つではありません。人生には様々な答えがあり、それらのバランスを取って生きていくことが大事なのだと思いました。

<')))><

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コメント

『キリスト教は邪教です!』の評価ありがとうございます。
 このたび、ニーチェの哲学の核心を小説にした『いたこニーチェ』を刊行しました!

 主人公・吉田武昭は、いつもモヤモヤ、人生含み損を抱えるサラリーマン。
 そんな武昭の目の前に、ある日突然、大哲学者ニーチェが高校時代の
 同級生・三木の身体を借りて降臨する。
 「今の歪んだ世界を正すため、お前を殺す!」と息巻くニーチェ先生。
 よくよく聞けば、武昭は、世界に未曾有の危機をもたらしている元凶、
 プラトン、パウロ、カントといった哲人の末裔らしい。
 ニーチェ曰く「このバカどもが 間違ったキリスト教の世界観を広めて
 しまったために、現代がメチャクチャになりかけている。
 よってお前の代で、この負の連鎖を断ち切るっ!」
 かくして武昭は世界を救うために「改心」すべく、ニーチェ先生にありがたい
 プライベートレッスンを授かるわけで……。
 ニーチェがわかって面白い、新感覚哲学小説。

 *ニーチェの『善悪の彼岸』の内容が、笑いながら短時間で頭に入るという寸法です。

 (詳細はこちらまで)http://www.geocities.jp/tekina777/
 (ご購入はこちらまで)http://books.yahoo.co.jp/book_detail/AAX76501/
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4870319047?ie=UTF8&tag=hasamitogi-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4870319047
 イラストは、テレビ朝日で絶賛放映中!
 『ねぎぼうずのあさたろう』の飯野和好氏。
 エディターは、現在170万部突破『夢をかなえるゾウ』の畑北斗氏です。

 なにとぞ、よろしくお願いいたします!

投稿: tekina | 2009/02/21 10:10

コメントありがとうございます。また、面白そうな本がですのですね。
このブログでは、基本的に宣伝は無条件で削除しているのですが、翻訳者の方のようなので残させていただきます(別の記事への同文コメントは削除しました)。

投稿: さかば(管理人) | 2009/02/21 10:26

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